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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 103


「……」
アリーは王宮内の一室で一人、王都の街並みを黙って眺めていた。
街のあちこちから火の手が上がっている。
(僕は…僕は本当にこんな事を望んでいたのだろうか…)
アリーは昼間の披露宴会場での光景を思い出していた。
物のように累々と転がる老若男女の死体、血の海、もう物言わぬ屍となった母親にすがりついて泣き叫ぶ幼い少女…。
(あぁ…あの子、僕を恨むだろうなぁ…殺してやりたいほど憎むだろうなぁ…)
貴族なんて全員、腐敗堕落した存在で、この国にとって害悪にしかならないと思っていた。
だから皆殺しにしてやれば良いんだと本気で思っていた。
だが、今はまるで憑き物が取れたような気分になっている。
なぜあんな残酷な真似をしてしまったのだろうかと、後悔と自責の念ばかりだ。
(…だがもう後戻りは出来まい!僕はこの犠牲の上に新たな体制による国家を…貴族も士族も平民も奴隷も無い、誰もが人間らしく自由に生きていける理想の社会を築き上げてみせる!この革命で命を落とした人々を無駄死ににさせないために…!)
それでも、自分の犯した罪を償う為に事実をありのまま受け入れ理想に燃えるアリーは新しい国を作るの決心する。
しかし、崇高な理想は過酷な現実の前では無力だというのをアリーはまだ気付いてなかった。
その頃、反撃の機会を得る為に王都近郷の農村に降りたアルトリア、セイル、ミレルはというと。

王都の現状を知る為にアルトリアとセイルは日が暮れるまで情報を集めて、ミレルはアルトリアとセイルと自分が今夜泊まる宿屋を探していた。
「ミレル、どうだった?今夜の宿は確保出来たかい?」
「申し訳ありません…駄目でした。村で唯一の宿屋は私達と同じく王都から逃れて来た人達で満室で…農家の方も回ってみましたが全て断られてしまいました。一応お金はお支払いすると申し上げたのですが、ぜんぜん足りないと…」
「そうかぁ…たぶん足元を見てるんだろう。僕らの持ち金なんて大した額じゃないし、それだったら金持ちの貴族や商人を滞在させた方が利口だものなぁ…。これは野宿でもするしか無さそうだね」
「いえいえ、お二方とも諦めるのはまだ早いですよ。もう一度頼んでみましょう」
そう言うとアルトリアは何故か道に落ちていた小石をいくつか広い上げ、包み込むように持つとキョロキョロと村内を見回し、一番大きくて立派そうな家へ向かって歩いて行った。
「ア…アルトリアさん!そちらのお宅は一番最初にお願いして断られた所ですよ!あんな大きなお屋敷なのに『家には他人を居候させておく余裕も部屋も無い!』って酷い剣幕で罵られたんですから…」
「良いから良いから…黙って見ておいでなさい」
アルトリアは石を持っていない方の手で扉をノックした。

「誰だよ?」
戸が開いて不快そうな顔をした中年女が顔を出し、ギロリと睨み付ける。
アルトリアは言った。
「村の宿屋が満室で困っています。一夜を明かせる寝床と暖かい食事をお恵みいただきたい。もちろんお金はお支払いいたしますので…」
中年女はアルトリアの後ろに立つミレルを見て言った。
「何だい!ま〜たあんた達かい!?うちは宿屋じゃないって言ってんだろ!?しつこいヤツラだね!」
こちらは下手に出ているというのに何とも高圧的な物言いにセイルはムッとして言い返した。
「奥さん、なにもそんな言い方しなくても良いでしょう!」
ところが、セイルの存在に気付いた女は態度を一変させた。
「あ…あら、お役人様でございましたか!?あらまあ!どうしたもんでしょう私ったら!いやだわ〜、そんなつもりで言ったんじゃあございませんのよ。ただ、家にはね、その…余所のお方をお泊めするような食糧の余裕もお部屋も空きがございませんで…誠に申し訳ございませんが…」
アルトリアはニヤリと笑って言った。
「いえいえ奥様、もちろん私達の方も無理を承知でお願いしている訳ですから…それなりの対価はお支払いするつもりで……」

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