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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 102

「キャッ!?セ…セイルちゃん!?」
「びっくりしたぁ〜!」
「セイル様、悔しい気持ちは解りますが馬車に当たらないでくださいよ」
「そうですよ坊ちゃま。物に当たるなんて幼子じゃあるまいし…」
「うぅ…ご…ごめん、みんな…」
彼にしては珍しく、つい感情が高ぶって、それが行動となって出てしまった。
バツの悪いセイルは御者席で手綱を取っているウマルの隣に腰掛けた。
「ホッホッホッ…まだまだ精神の鍛錬が足りんようじゃのう、セイルや」
「お恥ずかしい限り…」
「…しかしまあ、お前も心中穏やかではおられんじゃろうなぁ…。話はアルトリアさんから聞いたよ。騎士学校の友達だったそうじゃな…」
「はい…僕は今回の事件を未然に防げる立場にいました…今日死んだ多くの人達は死ななくて済んだかも知れない…それなのに…僕は…」
ウマルはフゥ…と溜め息を吐いてから、少し厳しい口調で言った。
「うぬぼれるな。お前一人がいくら頑張った所で、事件は阻止出来なかったじゃろう。巨大な流れの前では人一人の力など無力に等しい…。大切なのは過ぎた事を悔やむよりも、これからどうするか…じゃよ」
「これから…これから僕は一体どうすれば良いんですか?」
「一般的にその手の質問に対しては“自分自身で考えろ”という答えが返ってくるものと相場が決まっておる」
「そんな…それが解らなくて困ってるのに…!」
「ホッホッホッ…そう怒るな。ほんの冗談じゃよ。…まぁ、正直いま出来る事なんて何も無いわい。事態の推移を見守り、状況が好転するのを待つぐらいしか出来んじゃろう…」
「そうか……アルトリア!」
セイルはふと思い立ったように言った。
「いかがなさいました?セイル様…」
「僕らはこの先の村で降りる!王都から遠く離れた所にいたら、いざという時に駆け付けられないからね!」
そう、ずっと以前にも一度述べたが、ウマルの家は王都から馬車で三日もかかる場所にあるのだ。
一朝有事の際にはとても間に合わない。
「そういう事ならば…解りました!お供いたします!」
ウマルはミレルに言った。
「ミレルや。お前もセイルに付いて行っておやり」
「かしこまりました。大旦那様」
セイルは慌てて断った。
「いや、ダメだ!僕らと一緒にいれば危険な事に巻き込まれる可能性が高い。ミレルを危ない目には遭わせられないよ」
「大丈夫です!私こう見えて大旦那様直伝の護身術を身に付けてますから!坊ちゃま達の足は引っ張りませんよ!」
「うむ、ミレルの腕前は確かじゃ。共に連れて行けばきっと役に立つじゃろう」
「セイル様、ここはウマル殿とミレル殿のご好意に甘えさせていただきましょう」
「アルトリアまでそう言うんなら…解った!一緒に来てくれるかい?ミレル」
「はい!喜んで」
それを見ていたナシートは羨ましがって喚きだす。
「良いなぁ!良いなぁ〜!私もセイルと一緒に行きたぁ〜い!」
そんなナシートを諫めたのは意外にもヤスミーンだった。
「ナシートちゃん、気持ちは解るけど、戦えない私達が付いて行ってもセイルちゃん達の足手まといになるだけよ。私達は無事を信じて待ちましょう…」
「…うん、解った…」
(母様…!)
セイルは内心驚いていた。
ヤスミーンの事だからナシートと一緒になって「私もセイルちゃんと一緒に行く〜」とか言い出すかと思っていたが…セイルは母の事を少し見直した。

そして三人は王都に程近い農村で降りた。
当面はここを拠点に王都の様子をうかがうつもりである。



その頃、王都の各所では黒覆面の男達による王都市民達への宣撫工作が行われていた。
「市民諸君!!我々は腐敗堕落しきった祖国をあるべき正しい姿へと戻すために立ち上がったのである!そして今!革命は成った!民の窮乏を余所に国政を私物化してきた悪しき貴族共は一掃された!そしてこれからバム様とブム様による新しい時代が幕を開けるのだぁ!!」
「おぉ〜!!」
「なんか良く解んないけど良いぞぉ!!」
「革命ばんざあ〜い!!」

このクーデターは意外にも市民達から歓迎された。
普段から貴族・士族による支配に不満を募らせていた彼らは「とにかく世の中が変わるなら何でも良い」という感じで支持に回った。
バムとブムだって貴族じゃないかという話もあるが、それはそれ…。

そして、ウマルの予想通り王都各所でかつての支配者階級の者達に対する略奪・暴行が始まった。
結果的にセイル達は逃げて正解だったという事になる。
日ごろ溜め込んでいた不満を一気に噴出させた平民達や奴隷達が貴族や豪商などの邸宅を襲撃し、金銭や貴重品を強奪した上に彼らの妻や娘達を犯した。
王都は文字通り無法地帯と化したのである。

セイルの父オルハンが解放されたのは既に日が暮れてからの事だった。
「お前達!もう帰っても良いぞ!」
黒覆面の男達にそう言われ、オルハンたち王宮に軟禁されていた文武の官吏達は下城し、それぞれの自宅へと向かった。
オルハンも我が家への道程を急いだ。

「な…っ!!?」
クルアーン邸に辿り着いたオルハンは絶句した。
いや、かつてクルアーン邸があった場所…と言った方が正しい。
貴族の屋敷にも引けを取らなかった邸宅は綺麗に焼け落ち、ただ崩れて残った塀だけが無惨にその名残を留めていた。
この高級住宅街の他の屋敷も同様だった。
「……」
オルハンはガックリとその場に両手を付いてくずおれたのであった。

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