ロイ――新世界を刻む者 9
再度、捕獲を試みるシャングリラ。
先ほどは反射的に避けてしまったが、これから共に旅する仲間。
どうしようか、と迷った一瞬の隙をつかれ、ラファエルはシャングリラに確保された。
魔導師だという美女に抱きしめられた少年はロイに助けを乞う眼差しを送ったが、ロイは双眸で同情するよ、と伝えただけで何もしてくれなかった。
ぽよぽよ、とたわわな双曲の谷間に顔面を半ば埋めるように格好になったラファエル。
そんなシャングリラの豊満な身体にロイはただただ、驚きの声を上げた。
「――でかいな」
「ロイ殿、出港まで、まだまだ時間がある。部屋に荷物を置きゆっくりしてくだされ」
「わかりました、ゴッゴ司祭。シャングリラ――で、いいんだよな?そういうわけだ。俺たちは荷物を部屋へ運びたい。ソイツを解放してくれないか?」
シャングリラは不服そうに頬を膨らませた。
年の頃は二十五前後といったところだろうが、童顔のせいもあり、若く見える。
そこはラファエルとの共通項だ。
「はいは〜い、坊やまったね〜」
シャングリラは渋々とラファエルを解放する。
ラファエルは泣きそうな顔でロイのところへと戻った。
ロイ達が船に乗り込むと、海兵制服の大男が出迎えた。
「これはこれは。ゴッゴ司祭、オーガスト殿、この『フェニックス』号へようこそ。私は船長のタラワ・ヴァリー=フォージです」
潮焼けした顔に掘りの深い笑みを浮かべてそう言うと、タラワはゴツゴツした大きな手を差し出してきた。
ゴッゴ、次いでロイがタラワ船長と硬く握手を交わす。
半月を予定する、これからの長い航海のすべてを取り仕切る男だ。
無理にでも信頼しなければ、夜も眠れないし、不安で気が狂ってしまうだろう。
――そして、船上の人なっているロイは今日もこうやって甲板にてラム酒で流行る気持ちを抑えていた。
“シャングリラさんが僕を調べたがって……困ります。助けて下さい”
ラファエルの素性を可愛い過ぎるという理由で怪しんだシャングリラ。
その様子を保護者に助けを求める子供の様にロイに訴えるのだ。
ロイの口元にそっと笑みが浮かんだ。
(――バカな)
ラファエルに対し不思議な感情を持ち始めた自分が我ながら驚いた。
その時――、
「おまえ!何処から潜り込んだ!」
甲板の後方で喧騒が巻き起こった。
ロイは無意識のうちに騒ぎの起きた方へと足を向けた。
「待てっ、女!おまえは何者だ!」
「っ――何してやがる!」
荒くれの感のある大柄の船員達が一人の女を取り囲んでいた。
女は褐色の肌に黒髪を無造作に背中で束ね、ボロボロの服にその細身ながら、強靭そうな身体を包んでいた。
顔つきも大きな瞳で黒い眉がキリッと吊り上がり、大男達相手に臆している様子は皆無であった。
見たところ、武器も持っていないというのに――豪胆なことだ。
または向こう見ずのバカか?