ロイ――新世界を刻む者 8
ブレンダンは好奇心に溢れる視線をラファエルに向けた。
「カレルの弟子で…」
「カレル――あの、『医神』カレル・フランツの?」
「ええ。どうしても連れて行って欲しいと――ほら……」
「ラ、ラファエルって言います。薬草の事なら任せて下さい。あと……ラフィって呼んで下さい。是非、是非っ」
「……だそうです」
得意満面でブレンダンに笑いかけるラファエル。ロイはその様子を苦々しい顔で見つめた。
――正直、子供とは関わりあいたくない。……別に子供が嫌いなわけではないが。
「神父〜、ブレンダン神父〜」
不意にロイの背後からおっとりした女性の声が聞こえてきた。
「おお!シャングリラさん」
声の方を見たブレンダンが柔和な顔を綻ばす。
ロイは片方の眉の端を僅かに上げながら声のする方を振り返り見た。
ロイの目に飛び込んできたのは。
桟橋の入り口付近でこちらに向かって手を振るローブを纏った魔導師らしき若い女性の姿だった。
女は首から架けたオペラグラスでこっちを見て笑っている様だった。
オペラグラスを構えたまま近づいてくる女。
「彼女の名はシャングリラ・ハンコック。宮廷魔導師です。ああ見えても動植物や魔物に造詣が深いんですよ」
訝しげに見つめるロイの耳元でブレンダンがそっと囁いた。
やれやれ……また厄介な者が増えた。
そんな表情で頭を振るロイ。
そんな主人の様子を不思議そうに見つめるラファエル。
楽しい事が大好きな少年には仲間が増えるのは真に喜ばしい事であったのだ。
ただ、シャングリラがオペラグラスで見つめる先が自分であると気がついたラファエルは……。
「ぅ――わぁっ!」
えも言えぬ気配を感じ、とっさに跳び退ったラファエルの目の前を細い腕が通りすぎていった。
まるで肉食獣が獲物を狩るときのように溜め、勢いよく飛びついたが、空ぶってしまったためにシャングリラはよもや、人とぶつかりそうになってしまった。
シャングリラはその小振りで形の良い唇を尖らせると、不貞腐れた少女のように言う。
「もぉ〜、なんで避けるの?」
「な、なな――なんで、僕に飛びつくんですかっ?」
「可愛いから……よっ!」
「わぁあぁぁ――むぎゅぅ……」