ロイ――新世界を刻む者 53
飛び頭去りながら腰に下げた50センチ程の鉄のパイプの様な物を構える。
その先をのたうつ蔦に向けて引き金を引くジェラルド。
筒状の先から火花が飛び散り乾いた破裂音を上げる。
そして飛び出した鉛の塊に断ち切られる太い蔦。
ジェラルドが手にした…この短筒と呼ばれる武器。
その性能はまぎれもなく銃のそれであった。
だがオニオオボタンもこれしきで参る相手でもなかった。
別の蔦がジェラルドに向かって伸びてくる。
次の瞬間…黒い影が馬車の方から飛び出して来た。
その影は御者を務めていた女だ。
ウェーブの強い黒い髪。
蒼い瞳には闘志がみなぎっている。
この女の名はタランチュラ。
役回りはデラと似通った物であったが…。
手にした得物はデラとはまるで違っていた。
鎌と短剣が融合した様な如何にも体術の延長として接近戦で多大な効力を発揮しそうな武器を両手にたづさえていた。
そしてタンチュラはその名が示す様に両方の腕を大きく広げ…オニオオボタンと対峙している。
「大丈夫かい?タランチュラ」
この期に及んでもジェラルドは笑っている。
大した胆力である事には違いなかった。
「フン…」
薄ら笑いを浮かべた流し目をジェラルドに送り…せせら笑う様に鼻を鳴らすタランチュラ。
このふてぶてしい態度も何処かデラに似ていた。
「充分だよ!一人で!」
女性としては低音の声。
その声を嬉しそうに弾ませながらタランチュラはうねる蔦の中へと踊り込んでゆく。
「おうおう!相変わらずだねぇ…」
ジェラルドも楽しげに口元を弛ませながら、その様子を見つめている。
「ハントさまぁ…手貸すぅ?」
おっとり刀でナイトメアが馬車から出てきた。
今日のナイトメア。
全裸ではなく魔導師が着る様なローブを着ているが…。
薄いピンクの生地にビーズや羽根飾り、金や銀の装飾品の付いた派手な物であった。
「やめとけ…やめとけ…タランチュラにぶっとばされるぞ」
ジェラルドが楽しげにナイトメアの腰を抱き寄せた。
この一行も…ロイたちに劣らないチームワークと実力を兼ね備え持っている様であった。
そんなジェラルドたちのやり取りには一切構う事なく。
舞を舞う様な動きでタランチュラが多くの蔦に斬りかかってゆく。
それはまさに死の舞であった。
「アハハハハハハ!くたばりな!」
嬉しそうに甲高く笑いなながら両手を動かし続けるタランチュラ。
こんな処までデラに似ていたが。
デラにはない非道さを感じさせるタランチュラの笑いであった。
そしてタランチュラ。
その足をも大きく振り上げてオニオオボタンの蔦を蹴り上げる。
蹴られた蔦はズタっと斬り落とされゆく。
タランチュラのブーツの踝や爪先…そこにも鋭い刃が仕込まれていた。