ロイ――新世界を刻む者 52
デラも真剣な眼差しでロイを見つめ返す。
「何かあった時は苦労をかけるが…すまん」
淡々と告げるロイだが…その言葉には実があった。
「フッ…」
しばらく見つめ返していたデラが不意に小さく微笑んだ。
その微笑を見たロイ…口元に笑みを浮かべ力強く頷く。
「おぉぉぉし!さっさと道を造っちまおうぜ!」
デラが弾ける様な笑顔を浮かべた。
シャングリラ、ゴッコ、ラファエルが引き続きオニオオボタンの調査と監視にあたり…。
ロイとデラは残りの人間を率いて測量、開拓に従事した。
三日が経った。
シャングリラの推測では一ヶ月後になるか一年後になるかは判らないが今日、明日直ぐにオニオオボタンが活動を再開する事はなさそうとの事であった。
ロイの顔に安堵の表情が戻ったがそれは直ぐに苦虫を噛み締める表情になった。
デラだった。
最初の一日は頑張って測量にあたっていたデラであったが…。
二日目からはまるっきり違った。
水準器を覗かせれば明後日の方を見て笑っているし。
測量棒を持たせれば剣の様に振り回し、水準器を覗くロイに向ってウインクしている。
緊張感が持続出来ず、堪え性のない性格だとは判っていたが此処までとは…。
「もういい!デラ!おまえはロベルトと代われ!」
痺れ切らせたロイ。
そんなロイに悪びれる事なく屈託のない笑顔のデラは舌をペロっと出して開拓作業の方に走っていってしまった。
その背中を見つめながら苦笑を浮かべるロイ。
だが…直ぐに“ん?”と顔をしかめる。
この状況で笑える自分が不思議と言えば不思議であった。
オニオオボタンは当分は活動を再開する様子はない。
そう言ったシャングリラの見解ではあった。
そのシャングリラが粗方の調査を終えると。
ロイたちは大事を取って、予定していた道幅よりも遥かに狭い整地幅で先を急いだ。
その幅は馬車が一台くらい通れるくらいであった。
その幅で十日程進んだ。
行く手を阻む木々の数も大分減ってきた。
更に三日進んだ頃…木々の向こうに開けた土地が見えてきた。
深樹の海原を抜けるまであと少し。
ロイたちがその僅かな距離を開拓と測量にあたっている時だった。
例のオニオオボタンの休眠地にジェラルドのド派手な馬車が到着していた。
「なんだこりゃ?」
訝しげにオニオオボタンのひとつに近づくジェラルド。
次の瞬間だった。
地面に垂れ伸びていた蔦がジェラルドの脚に向かって伸びてきた。
オニオオボタンのひとつが活動を再開したのだ。
「なんだ!これは!」
驚くべき敏捷性を発揮して飛びづ去るジェラルド。