ロイ――新世界を刻む者 5
しかし、彼らは総じて深い森の奥や険しい山脈の山頂付近などの未開の土地に住んでおり、実のところ、その生態はよく分かっていない。
ロイだって人生で数度、会ったことがあるだけだ。
ハーフだとはいえ、ソレが目の前にいる。
「あ、あ……あの、先生?」
「ラフィ。彼はロイ・オーガスト……私の友人だ。そして、測量士で今度は開拓者にもなるらしい」
「はぁ……ぼ、僕、ラファエルって言います。ラファエル・アスノフ――か、家名は先生に弟子入りした時に付けたものですが……」
聞いてもいないのに、余計なことまで言う少年。
「ラファエルだ…おまえさんの旅に同行してもう。さっきまで大変だったんだぞ?――僕はクビですか?破門ですかっ?――と散々な」
だが、もう納得済みなのだろう、その異形の美少年はニッコリと微笑んだ。
「よろしくお願いします…オーガストさん。ぜひ、ラフィとお呼びください」
ラファエルは中性的な声で、弾む様に言った。
「おい!これは――なんの冗談だ!」
ロイは少年の言葉と微笑みを無視してカレルに詰め寄った。
「冗談じゃない。いたって真面目さ……」
「子供なんて――連れていけるか!」
「ただの子供じゃないぞ」
「子供は子供だ!」
激高するロイと受け流すカレル。
ラファエルはオドオドと二人のやり取りを見守っている。
「はぁ……いい加減に受け入れたらどうだ、ロイ?」
肩をいからせ、荒い息を吐くロイにカレルは父親の様な口調で優しく語りかけた。
――いや、兄か。
「クリスは死んだ。エマも死んだ。それは俺も悲しい。妹と姪っ子なんだからな」
カレルはロイの肩に手を置くと「でもな――」と続けた。
「遺された者は、認め、受け入れ、そして、前に進むしかないんだ」
「…………」
ロイは視線をカレルに向け、ラファエルに向け、天井に向け、床に向け……そして、再び、カレルへと向けた。
そんな押し黙る、これからの旅の連れを目にしたラファエルはおそるおそると言う。
「ぁ、の……僕が、何か不手際を……」
その台詞にロイとカレルは顔を見合わせた。
おそらく、カレルは自分の素性を詳しく話していないのだろう、と考えたロイは首を横に振る。
「いいや、そんなことはない。君がどうだってわけじゃあね……」
「その通りだ。ラフィ、いいか?コイツは偏屈だが、悪い奴じゃない。まぁ、いまみたいな態度も時々、取るが……その時は黙って話しを聞くか、ほっとくかすればいい」
「そんな、子供みたいな……」
「うん?分かっていないようだな、ラフィ。世の中の人間は皆、大人ぶってはいるが、いつまで経っても子供だよ。だから、常に成長するし、いつでも変われる」
「はぁ……なるほど?」
相手は師匠だ、ラファエルは頷くが、疑問符を浮かべたままであった。
カレルは微笑むと続ける。
「まだ、おまえには早かったかな?」