ロイ――新世界を刻む者 4
あっという間に滝のような水流に飲み込まれた。
結局、生き残ったのは自分とカレルだけ。
あとは皆、死んでしまった。
妻のクリスも愛娘エマも、みんな――。
「――っ!」
ロイは酒盃を一息に空けた。
そんな義弟――未だに一度もそう呼んだことはなかったが――を見つめていたカレルは意を決したように言う。
「ロイ――新世界へと旅立つ君に、良いモノを二つ、あげよう」
「ありがとう、カレル。それで?なにをくれるんだ?」
「いまは――ムリだな。明日渡すから、今日は飲め。食え」
ロイはカレルをまじまじと見つめた。
昔は違ったが、王都に来てからはずっとしている剃髪に口元や目尻のシワ――まぁ、自分も似たようなモノだろうが――、細く開かれた目なとのおかげで、非常に柔和に見えるが、実のところ――結構、頑固で手前勝手なのである。
だから、ロイは素直に従った。
「わかった。今日はカレルの言う事を聞くことにするよ」
ロイはそのまま酒を飲み料理を食べ、朝を迎えた。
翌朝…。
カレルの元を去ろうとするロイに渡された二つのモノ。
一つは茶色の遮光瓶に入れらた液体だった。
「これは?酒か?」
「半分な。だが、残念ながらガブガブと飲める酒ではない……」
ボトルを手にして……訝しみ、透かし見ていたロイに友は悪戯っぽく微笑みかけた。
ロイは失敬な――、と眉を寄せたが、直後に二人とも吹きだした。
その下ではピュールが眠たそうに身体を揺すっている。
新世界への出立は三日後――そして、いつ帰ってくるか、帰ってこれるかも分からない旅程のため、この友に再び預けてもらったのだ。
「それと……入っていいぞ」
「――はい、先生っ」
カレルは言葉の前半をロイに、そして後半は奥の部屋へと投げ掛ける。
青年?――いや、少年と呼ぶべきだろう風体の若者がロイ達の間へ入ってきた。
「な……なん、だ!?」
ロイの顔に苦虫を噛んだ様な複雑な表情が広がってゆく。
それは様々な理由からだ。
会話の流れにそぐわない少年の登場。
その少年の愛くるしい顔立ちに浮かべられた困惑の表情。
そして――、
「か、彼は獣人なのかっ!」
ロイは何度も観察してみたが、結果は変わらなかった。
少年のその藍色の髪に包まれた登頂には、ちょこん、と二つの丘があったのだ。
それは犬や狼、狐などの耳である。
例え話しではなく、本当に動物のソレだった。
目を見開くロイへカレルは飄々と告げる。
「ああ、そうだ。正確にはハーフらしいがね……驚いた?」
「そりゃ、俺も何度か亜人種と遭遇したことがあるが――驚いた」
ロイは少年を凝視しながらも頷いた。
亜人――獣人やエルフ、ドワーフ、竜人などの総称である。
彼らは人間の信奉するフルトーネル教でなく、自然を神とし、崇めていることが特徴だ。