ロイ――新世界を刻む者 38
夜が来た…。
野営地はひっそりと静まり返っていた。
シャングリラとラファエルは馬車の中でシャングリラの持ち込んだ植物図鑑を紐解いていた。
「あ!この絵!この絵にそっくりでしたよ」
ひとつの植物の挿絵を見つけたラファエルが目を丸くした。
「どれどれ…」
シャングリラが眼鏡の縁に手をやり図鑑を覗き込んだ。
「なになに…オニオオボタン…牡丹の花に似ているが牡丹の仲間ではない…牡丹じゃないんだぁ…えっ!食虫植物…」
「虫を食べるの?」
シャングリラとラファエルがあんぐりと見つめあった。
「これがおっきくなったの!?」
驚いた様に声をあげるラファエル。
確かにそう考えるが一番妥当であった。
「た…たぶん」
シャングリラは引きつった笑いで答えた。
外の焚き火の側ではリュックが両膝を抱え座っていた。
昼間の事が余程堪えたのか…この少女にしては随分と静かだった。
「大丈夫ですか?」
両手にひとつづつカップを持ったゴッコがその横に腰を下ろした。
「あっ!おじさん…」
リュックが力のない微笑みを浮かべた。
「ミラさんが作ってくれたスープです…暖まりますよ」
ゴッコは片目を瞑り優しく微笑みながらカップのひとつを差し出した。
「ありがとう…」
両手で受け取るリュック。
「エヘヘヘ…暖かい…」
子供の様に笑いながらリュックがカップに口をつけた。
「そうですね」
ゴッコも自分の口にカップを運ぶ。
簡単な作りのスープではあるが…確かに心に染みる程暖かかった。
「ボクさ…好きになっちゃった…」
スープをフーフーと吹きながらリュックがポツリと言った。
「オーガスト殿はあぁ見えて…お優しい方ですからねぇ」
そう言うゴッコの眼差しも優しかった。
「ロイは前から好きだよ…でも今日好きなったのはね…」
まさか…ラファエルを?
まかり間違っても自分なんてコトはあるまい。
「ラフィですかな…」
ゴッコはそう尋ねるとスープを口に運ぶ。
「違うよぉ〜」
まさか…本当に自分なのか?
そんなバカな…。
「あのう……」
「デラだよぉ〜」
デ…デ・ラ・クルスさん!?
「ゴホ!ゴホッ!ゴホ!」
「やだな…大丈夫?…おじさん」
「え…え…スープが気管に…ゴホッ!」
まさか…デラとは…。