ロイ――新世界を刻む者 35
「リュックさんはオーガスト殿が好きのですか?」
その顔を見たゴッコも陽だまりの様に暖かい笑みを浮かべる。
「うん!シブくて…カッコいいじゃん」
「ほお…」
ゴッコの微笑みは絶えない。
「でも…ダメかなぁ〜」
「どうして…ですか?」
「だって…ロイはデラにぞっこんじゃん」
「そうなのですか!?」
リュックの突然の言葉にゴッコも驚きを隠せなかった。
ロイにとってデラの事はただの煙たい存在だけだと思っていたが…。
案外…リュックの言葉の方が真を突いているかもしれない。
それでも…。
「オーガスト殿がデ・ラ・クルスさんをですかぁ…意外な感じですねぇ」
「しょっちゅう…カラかって嬉しそうにしてんじゃん」
リュックはそう言うと唇を尖らした。
だとしたら…目の前の少女には悪いがロイにとっては喜ばしい事でないのか。
ゴッコにはそう思えて仕方なかった。
ただロイ自身はその気持ちに気づいているのだろうか…そんな疑問も感じられなくもなかった。
―そしてデラは…――
「へっく!へっくしゅん!…へ!」
舞い上がる埃や花粉のせいか…はたまたリュックたちに噂されたせいか激しくクシャミを繰り返しながら枝を払っていた。
「…たくよぉ!」
不満タラタラながも言われた事はやる。
そんな天性の素直さ…リュックに言わせればそんな処もロイの心を捉える要因なのであろうか。
「あぁぁ!くそ!」
力任せに蔦を引きちぎるデラ。
例え周りがどう思おうとこの女が凶暴であるのはこれもまた確かな事実であった。
…とその時。
「キャァァァァァァ!!」
悲鳴を聞きハッと顔を上げるデラ。
こんな所で女性の悲鳴…仲間の物に違いなかった。
その悲鳴は測量中であったロイにも届いた。
「ロベルト!アポリー!」
至急二人の若者を呼び寄せるロイ。
二人の若者は素早い動きでロイの元に駆け寄って来た。
「ちょっと見てくる!二人はミラの側にいてやってくれ!…ここは任せる…大丈夫だな?」
ロイは護身用の弓を手にした。
「わかりました…大丈夫です!」
ロベルトの生真面目な返事。
「こう見えてもベテランなんですよ…何が来ても負ける訳ないでしょ」
アポリーのふてぶてしくも思える若者らしい返事。
「二人とも頼んだぞ!」
ロイは内心…二人をつけてくれたシスターに感謝しながら悲鳴のした方へと走った。