ロイ――新世界を刻む者 25
自分が常日頃から感じている事と同じ事を、この人の心を読む尼僧の口から聞いた。
心の何処かがほんわりと暖かくなる思いであった。
「そうです…司祭。
人々は慈悲深い言葉やありがたい教えによって救われる訳ではありまりません。
一枚の金貨、一切れのパンによって救われるのです」
静かだが…力強いシスターの言葉だった。
その言葉にゴッコは満足げな笑みを浮かべて大きく頷く。
「わたくしは司祭…貴方の様な方が現れるをお待ちしておりました」
淀みのない正確さでシスター・アンがゴッコの手の甲に自分の小さな手を重ねてきた。
人の心を読めぬゴッコにですら…シスター・アンの気持ちがありありと伝わってきた。
「シスター…私に主の教えを捨てろと言うのですか」
ゴッコは困惑気味の笑みを浮かべる。
「そうではありません…主の教えを変えるのです。
貴方なら出来るはずです」
シスター・アンの銀色の瞳に優しい光が溢れた。
「シスター…」
息がかかるくらい顔を近づけたゴッコが小さく呟く。
その吐息を感じたシスター・アンがその銀色の瞳を静かに閉じる。
引き寄せられる様にゴッコの唇がシスター・アンの唇に重なった。
そして…小鳥が啄ばむ様なくちづけを繰り返す。
久方ぶりに己の唇に感じる感触は柔らかく…官能的で。
ゴッコは最早、己を押し留める事は出来なくなっていた。
少し前までは啄ばむ様な動きであった唇が何時しかしっかりと絡み合ってゆく。
シスター・アンとて臆する事なく…ゴッコのくちづけに応えていた。
シスター・アンと丹念なくちづけを繰り広げるゴッコ。
いつしかゴッコも両方の瞼を閉じ…唇ばかりか両方の手の平をもシスター・アン手の平と重ね合わせていた。
暖かい想いの様なものがシスター・アンの唇や手の平を介してゴッコの体内に流れ込んで来る様であった。
そして…この時のゴッコはまだ、己の身体が銀色の光に包まれている事に気がついていなかった。