ロイ――新世界を刻む者 19
「本当に平気か?冷や汗までかいてるぞ…」
かがみ込んだロイを心配そうに覗き込むデラ。
「大丈夫だ…」
ロイはフラフラと甲板の手摺にもたれ掛かった。
手を貸そうとするデラ。
その時だった。
「陸ですよ!陸地が見えますよ!」
シャングリラのオペラグラスを手にしたラファエルがニコニコと駆け寄ってきた。
「ちょうど良かった…ラフィ、ロイを見てやってくれ!具合が悪そうだ」
キョトンとしたラファエルの腕をデラが引っ張る。
「本当にもう大丈夫だ…」
ロイは心配するなと言った感じで二本の足でしっかり立って見せた。
「待ってよぉぉ!ラフィ…」
その直後にシャングリラがやって来た。
その後ろにはいつの間にやって来たゴッゴ司祭の姿もあった。
「いよいよだな…」
水平線に見え隠れする陸の影を見つめてロイが呟いた。
ロイを始めとした五人の男女は甲板に並び立ち、間近に迫った『新世界』にそれぞれの思いを馳せていた。
屈強な港の男達に太いロープで曳航されたフェニックス号がその巨体を桟橋に徐々に近付けてゆく。
『グロリアス・ノヴァ』この港街が唯一、『新世界』において王国の支配がおよぶ場所であった。
全ての開拓者、冒険者はこの港街を『新世界』への足掛かりとしていた。
桟橋のたもとには物売りや、客引き、怪しげな話を持ちかける無頼の類が大挙してフェニックス号を下船する乗客達を待ち構えていた。
無論、ロイ達一行もご多分に漏れず、その怪しげな連中に取り巻かれる事となった。
物乞いや行商人の差し出す手を無言で交わし進むロイとデラ。
その後ろにやや顔を引きつらせたシャングリラ。
物珍しげ回りを見渡すラファエル。
だが…その手はしっかりとシャングリラの手を握っていた。
そして、殿にゴッゴ司教。
ゴッゴ司教は慈悲深い眼差しで取り巻く連中を見つめ祈りの言葉を呟いていた。
「おい!あんた!」
見るからに酒によっている大男がロイの行くてを塞いだ。
ロイは黙ったままその脇をすり抜け様とする。
「おい!待てよ!」
大男が再びロイの行くてを阻む。
酒に酔っているのは確かだが身なりはみすぼらしくはない。
髭面で厳つい顔つきだが歳の頃はロイとそう変わらない。
「なぁ…金貨二枚でその姉ちゃん一晩貸さねぇか?」
男は酒臭い息を吐きながらシャングリラの方を指差した。