中出し帝国 45
そのメアという部下を、シエラは余程大事に思っているのだろう。
ルルは、シエラに率直に尋ねた。
「そのメアって人、どんな人なの?」
シエラは腕を組んだまま、一度瞳を閉じる。
そして再び瞳を開けると、思い出を語るような口調で話し始めた。
「メアは、私のように獣人でして。ドジな奴ですが、大変な努力家でもありました」
メアという人物は、犬系統の獣人の女性らしい。
天賦の才がある訳でもなく、生まれも育ちも決して良くはなかった。
両親を早くに失い、迫害を受けた経験もあったという。
「それでも、彼女なりの正義感があったのでしょう。
明るくて実直で、私の下に着いたばかりの時はどうしようもなかったのに、数年も経たず一人前になりました」
誇らしげに部下を語るシエラに、ルルは優しげな微笑みを見せる。
まるで優秀な我が子を自慢したがる母親のような……ルルが民を家族と思うのと同じような、そんな感じがした。
「私も似たような境遇であったのですが、彼女程真っ直ぐに生きては来られなかった。
辛い過去を持っていようが、暗い影を見せようとはしない、言い訳にしない。
そんな奴でしたね……」
懐かしむような口調のシエラだったが、「しかし……」と呟くや渋い表情になる。
ルルはその様子に首を傾げた。
「しかし……何?」
「は。お恥ずかしい話ながら、実はメアは、盛りが付くと少々見境がなくなってしまいまして……」
「盛り、ね……」
ルルは少し面食らいながら、シエラの話に耳を傾ける。
「あのウルヴァンス大聖堂の警備の夜……図らずもその時期と重なってしまいまして」
シエラは眉間に皺を寄せ、人差し指で何度もそこを叩く。
「あろう事か……厳かな大聖堂で、その、じ、自慰を……」
「自慰って……まさか、大事な聖書を汚したっていうのは……」
ルルはまさかと思いつつ、脳内解答の答え合わせを待つ。
シエラは手で顔を覆いながら、少しばかり肩を震わせた。
そして観念したように手を退け、溜め息を1つ。渋々と答え始めた。
「その、彼女なりに抑えようと必死だったのですが……それが逆効果だったようで。
溜まりに溜まった欲を発散する為に、その……ちょうど近くにあった、聖書の角で……」
「自慰をした、と……」
ルルの言葉に、シエラが力無く頷く。項垂れた、というべきか。
「そりゃ責任も取らされて国を追われるわ……」
「し、しかし、いつもそういう訳でなく、たまたま盛りが重なってしまった上の失態で……」
呆れ気味のルルに、シエラが必死の弁明をする。
その必死さが何だか可愛くて、ルルは思わず口に手を当てて笑ってしまう。
シエラは俯き加減に、頬を紅く染めている。
ルルは小さく咳払いをし、シエラに顔を上げるよう促す。
「フフ、貴女が部下を大事に思っているのは良く分かったわ。
今、ウチの者に、その貴女の部下の行方を探させている所よ」