中出し帝国 35
昨日、彼女が犯されていた現場へとルルは向かう。
理由は単純。彼女と話をしてみたいが故だろう。
勿論、好奇心などという馬鹿馬鹿しい感情から生まれた考えではない。
己の意思と彼女の意思が、どれほどかけ離れたものかを再確認するためだった。
背後から声が聞こえた。
「姫様、どちらへおいででしょうか?」
振り返ると、鋼鉄の鎧を身につけた、茶髪で初老の顔つきの男。帝国の騎士団を束ねる団長である、ガレアセル・トゥラーズだった。
「…これはガレアセル様。昨日は何のお構いもなく、失礼しましたわ。」
というのも、この男は週に1度行われる接合令で、必ずルルを指名してくるからだ。それも大層執拗に。
「いえ、構いません。それに私は昨日城を空けておりましたのでな。」
「…まぁ。ファウストで何か議論に加わっておいでだったのですか?」
「はい。例の、未確認生物についてでございます。」
ルルは顔を固くする。
「…そうですか。未知の生物なのですもの。確かに、どこの国でもお渋りになられるでしょうね。」
「…全くでございます。大きな声では申せませぬが、やはりどの国もそれを保護する意を示す者はおりませんでした。」
その未確認生物とは、ファウストの兵士を数人虐殺した、大陸で最も恐れられている生き物である。
結果的には捕らえる事に成功したのだが、何故それを殺さずに保護するのかは、戦争に用いらせる為だった。
しかし、今この大陸では戦争はまだ起きていないので、文字通り戦争が始まるまでは保護しようとしたのだ。
「…やはりそうでしたか。それで、お父様はどのように?」
「……また、‘飼われる’そうで。」
ルルの表情はさらに暗くなった。
「………分かりました。」
その場を立ち去ろうとするルルに、ガレアセルはさも悔しそうにつぶやいた。
「…申し訳ございませぬ。姫様ばかりが傷つかなければならないのは、私も悲しく存じ上げます。」
ルルの足が止まる。
「構いませんわ。意思感情はどうあれ、私はあのお父様の一人娘。………私は、ただ国の繁栄の為に行動するだけ。例えそれが、どんな屈辱を味わうにせよ、私は今の自分を保たなければいけませんの。…どれほどの数に侮辱されようとも、ね。」
ガレアセルは敬礼する。