5大聖龍とその女達 94
ラムサの強さはよく知っているつもりだが、相手はあの首なし緑巨人だけではない。
ヤツに操られた、エリアとマリーもいるのだ。
彼女らを傷つけないようにしながら、2人であの巨人を倒すのはいささか厳しい話のように思えた。
するとラムサはほんの少し、不愉快そうな表情を浮かべながらアレスから視線を移した。
「・・・安心しろ。少々不愉快だが、ヤツの手を借りれば何とかなろう」
「『ヤツ』・・・?」
ラムサの視線の先にいるのは何やら苦しそうにうめくウルゥの姿。
しかし彼女が戦力になるとは思えないが・・・?
アレスがそう思ったそのときだ。
「・・・うぐッ!?う、げぇッ!ぐ、ぼぉえぇ・・・ッ!!」
突然ウルゥが強い吐き気に襲われた。
ヒロインにあるまじき声とともに未消化物を吐き出す。
アレスがびっくりして、介抱しようと駆け出すと・・・。
「はぁッ・・・はぁッ・・・!くそっ、手間取らせやがって・・・。
あの野郎、絶対にブッ殺してやるッ!?」
口汚くののしりながら口をぬぐうウルゥ。
それはかつて、村を襲ったボアライダーによって寄生した、名もなき魔物であった。
「お・・・まえっ、魔物ウルゥっ!?な、なんでおまえがっ!?」
突然の魔物ウルゥの登場に、傷のことも忘れて驚くアレス。
しかし冷静に考えてみれば魔物ウルゥが出てこなかったことに疑問を感じる点がいくつかあった。
1つ目は宿主である人間ウルゥがピンチだったにもかかわらず表に出てこなかったこと。
いくら自分の存在をマリーたちに隠したいとは言え、死ぬまで姿を現さないはずがなかった。
そして2つ目はウルゥが毒か何かでもがき苦しんでいたとき。
おそらくウルゥはエリアたちと同じく、洗脳系の薬物を打ち込まれたのだろうが、人間ウルゥが洗脳されても魔物ウルゥまでもが洗脳されるなんてありえない。
毎日が弱肉強食のサバイバル生活を送っている魔物は、それゆえに生命力が強く、毒物などの抵抗力も人間より高いのだ。
なのに魔物ウルゥは今まで出てこなかった。
これはいったい何を意味しているのだろう?
魔物ウルゥは自らが吐き出した吐しゃ物を忌々しそうににらみつけながら、ぐいっと口元をぬぐった。
「先客のオレ様を差し置いて、この身体奪おうなんざ1000年早えんだよッ!?」
「え・・・?」
魔物ウルゥの言葉に、アレスが吐しゃ物に目を向けると。
そこには未消化物に混じって、唯一形をとどめている紫色の『何か』が転がっていた。
その生々しさは生き物のようでもあり、根っこのような細い触手は植物のようでもある。
魔物ウルゥの言葉からして、これも寄生タイプのモンスターなのだろうか・・・?