5大聖龍とその女達 46
するとボアライダーは懐から何かを取り出そうとしていた。
それは寄生魔物の卵の入った吹き矢だった。
ボアライダーたちは自分よりも強そうな者、才能のある者、若しくは自身の身に何かあったときのために用いる常套手段だ。
矢に当たれば、数日で身体に変化はあるが、特に命に関わることはない。
だが、この期間で寄生魔物は身体の主とは別の人格、つまり自分の人格を形成するのである。
そして、この寄生魔物の人格と身体を交えた場合、生まれてくる子供は全て寄生魔物になってしまうというとんでもないもの。
ボアライダーたちはこうして自分たちの種族を増やしていくのである。
(く、確かに貴様は強い。それは認めよう。だがその強さを我が種族のために捧げるのだ。)
ボアライダーは吹き矢を構え、アレスに狙いを定める。
アレスは気付いていない。
(くらえ!!)
シュッ!
ついに矢が放たれた。
矢はアレスに向かってどんどん距離を縮めていく。
このままではアレスに矢が当たってしまう。
だがその時、
「アレス君、危ないっ!!」
「え、うおっ!!」
グサッ
「あ……」
間一髪のところでアレスは危機を免れた。
実はボアライダーが吹き矢を放つ直前に、ウルゥが咄嗟にアレスを押して庇ったのである。
だがその代償はウルゥに向けられてしまった。
「「「「ウルゥ(ちゃん)!!」」」」
ボアライダーの放った矢は無情にもウルゥの首に刺さり、ゆっくりと地面に倒れていった。
「くっ……無念……」
そう言い残し、ボアライダーは静かに塵となって消えてしまった。
身に付けていた仮面を残して……。
群れをまとめていたボアライダーが倒れたことで、大勢は決した。
魔物たちは統制を失い、1匹・・・また1匹と戦場から逃げ出していく。
しかしアレスたちの眼中には、すでに魔物に映ってはいなかった。
ボアライダーの吹き矢を食らったウルゥに向けられていた。
「ウルゥっ!?大丈夫かっ!?しっかりしろッ!?」
「う・・・あ・・・」
アレスはあわててウルゥに呼びかけるが、返事が返って来ない。
吹き矢に毒か何か塗ってあったのか。
そんな確信めいた予感がアレスの背筋を凍らせた。
「どいてっ、アレスちゃん!」
エリアがアレスを押しのけるようにどかすと、何やら呪文のようなものを唱えて両手を当てる。
「うぐっ・・・うぅっ・・・ああっ・・・」
「・・・回復魔法と浄化魔法、か。
2種類の魔法を同時に使うとは器用な」
「エリアはああ見えても村でも屈指の回復呪文の使い手なんだ。
エリアの腕なら応急処置以上のことができるだろ」
ラムサのつぶやきに、駆けつけたマリーが補足説明をする。
その隣では押し飛ばされたアレスが、最後の最後で詰めを誤ったことを悔しそうに見つめていた。
それを見たラムサは、すばやく彼に声をかける。