5大聖龍とその女達 191
アレスはティルティオラにすべてを話した。
仲間の1人であるウルゥが、自分の未熟さゆえに魔物に寄生されてしまっていること。
しかしウルゥ本人にはその自覚がないこと。
それを何とかするには聖龍の書であるメルディアと、聖龍の紋章であるティルティオラの力がいるとラムサから教えられたこと。
ラムサとメルディア以外は知らない(と思っている)ことをすべて話したうえで、アレスはティルティオラに訴える。
「頼む。ウルゥを魔物から助けるために、アンタの力を貸してくれ」
「・・・・・・・・・」
話を聞いたティルティオラは目を閉じ、何やら思案していたが・・・。
そのまぶたを開くと同時にその口を開いた。
「申し訳ございません。私はアレス様の望みに手を貸すことはできません」
「・・・ッ!?な、なんで・・・どうしてだよっ!?」
「ご覧のとおり、私がこの都市を守る礎となっているためです。
今の私は力のすべてを都市を守るために注ぎ込んでいる状態です。
その魔物を除去するために必要な力をお貸しする余裕はないのです」
「じゃ、じゃあそれをいったん止めれば・・・!」
アレスはなおも食い下がろうとするも、ティルティオラは悲しげに首を振るのみ。
「アレス様。今この王都の結界を解くことはできません。
日に日にゾーマの力が増していく中、一瞬たりとも民を危険にさらす真似はできないのです。
どうかご理解ください」
全を守るために個を捨てる。それは上に立つものとして必要な資質。
しかしまだ若いアレスにはそんな言い分などただの言い訳にしか聞こえない。
ウルゥを汚らわしい魔物から解放できる、その寸前までたどり着いたのだ。
あきらめられるはずもない。しかしアレスがどれだけ頼んでも、ティルティオラは首を縦に振ることはなかった。
「申し訳ございません。私にもあなたと同じく守らなければならないものがあるのです。
どうか、どうかご理解を・・・」
ティルティオラは心から申し訳なさそうに、ただただ謝罪の言葉を繰り返すのみ。
だがウルゥを助ける手段を目の前にして、アレスだってあきらめられるわけがない。
かくなる上は長期戦だとアレスは覚悟を決めた。
「わかった。それじゃあどうすればアンタの力を借りられるか。
まずはそれをとことん話し合ってみようか」
「・・・あきらめてください、と言ってもムダなのですね」
「ああ。やっとウルゥを助けられるあと1歩のところまで来てるんだ。
そう簡単にあきらめてたまっかよ」
腰を下ろし、笑みを浮かべるアレスにティルティオラは苦笑を浮かべるしかない。
「いいでしょう。お互い譲れないもののために話し合いましょう」
そしてアレスたちが話し合いを始めようとしたその時だった。
突然1人の兵士がノックもなしにティルティオラの部屋へ入ってきた。
昨日魔物の襲撃があったときのように息を乱し、その顔は恐怖と緊張で青ざめている。
「何事です?!」
「ま、魔物の襲撃ですっ!そ、その数は1!し、しかしその身体は非常に巨大でっ・・・!
あ、明らかに昨日襲撃してきた魔物たちより強力な魔物と推測されますっ!」
「落ち着きなさい!まずは城壁にいる兵士たちに連絡して魔物をけん制!
時間を稼ぎ、検閲待ちの旅人並びに住民の避難を急ぎなさい!」
「は、はいっ!?」
「まぁた魔物か。ったく、これから大事な話をしようって時に・・・」
「申し訳ありません、アレス様。またご助力をお願いできますでしょうか?」
下ろした腰を上げるアレスに、ティルティオラは迷わず協力を頼んだ。
おそらくやってきた魔物は昨日の魔物の群れと無関係ではないだろう。
それを考えると、戦力は少しでも上げておいたほうがいい。
瞬時にそこまで考えたティルティオラは、メンツやプライドなど不要と切り捨て、アレスに協力を頼むことにした。