PiPi's World 投稿小説

5大聖龍とその女達
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 173
 175
の最後へ

5大聖龍とその女達 175



――――

ズチュッ・・・グチュッ、グシュ、グチョオォッ・・・

同時刻。王都クイーンマリアからさほど遠くないところにある小さな山。
そこには1匹の魔物が歩いていた。
しかしそれは本当に1匹と呼んでよいものだろうか。
悪臭と腐汁をまき散らしながら歩くそれからは、弱々しいいくつもの生き物たちの声が聞こえていた。

「キャウゥゥン・・・キャン、キャイィィン・・・」
「ピィ・・・ピィ・・・」
「殺してぇ・・・誰か私を殺してぇ・・・」
「ギュウ・・・グ、グオオォォォッ・・・」

獣や鳥だけでなく、人間や魔物を含めたおびただしい犠牲者たちの声。
醜悪極まりない最低最悪の化け物は、それをBGMに誰もいない山の中を歩く。
この諸悪の根源に近づこうなんて考える生き物は存在しない。
何せコイツは1歩踏み出すたび、周囲の草木を地面ごと腐らせているのだ。
むしろ全身から放たれる悪臭はまわりに対する配慮とすら言ってよかった。
まともな神経を持っているものなら、この化け物の姿を見たら一生悪夢にうなされる。
心臓の弱いものが見たら、この世の終わりを見たかのような顔で死ねるだろう。
それほどまでにその魔物は醜く、恐ろしかった。
この付近一帯の生き物を追いたてた諸悪の根源はゆっくりと歩を進める。
目的地は王都クイーンマリア。
そこにこの化け物をひきつけてやまない何かがあった。
それが何なのかは当の本人(?)にもわからない。
もともとそれを考えるだけの知能も知識もなかった。
そいつはこの後数年は消えないであろう、忌まわしい足跡を残してただ進む。
本人にさえ理解できない、漠然とした何かに突き動かされて。

――――

ところ変わってクイーンマリア王城地下。
そこでは自ら人柱となってこの王都を守る『聖龍の紋章』ティルティオラが、1人の男と話していた。

「そうですか・・・。ここを襲ってきた魔物たちは撃退できましたか」
「はい。ですがまだ油断はできません。
 あれほどの大きな魔物の群れが襲撃してきたことなど前代未聞。
 むしろここからが本番と見るべきでしょうな」

ティルティオラと会話する壮年の男。
その男こそ、このクイーンマリアを中心とした1国を治めるクイーンマリア王その人であった。

「申し訳ございません、王よ。私の力が至らぬばかりに・・・」
「とんでもない。初代女王の代からずっと平和を願い、我々を守り続けてくれたのです。
 感謝こそすれ、あなたに怒りをぶつける理由など何もありませぬよ」

王がそう言っても、ティルティオラの顔が晴れることはない。
彼女にしてみれば、この世にゾーマの脅威からすべてを守れない時点で無能と同義なのだ。
自分に絡みつく鎖、そして足元に広がる巨大な魔法陣。
メルディアのようにあらゆる知識に詳しいわけではないが、それでもこれがものすごい設備であることは理解できる。
しかしそんなすごいものを用意してもらっているのに、ティルティオラはすべてを守ることができない。
このムダにあふれる力を使い切れない。
もしこれ以上力を供給しようものなら、結界を維持する機能を破壊してしまうだろう。
このシステムの存在を知ったとき、彼女は罪を償える、みなの役に立てると喜んだ。
だが現実はどうだ。
限られたものの命しか守ることができず、しかも守る力には限界があると来ている。
ティルティオラのほうはまだまだ余力を残しているというのに、だ。
歴代の王たちはそんな無力に嘆くティルティオラを慰め、彼女の望みをかなえようと最大限の協力をしてきてくれたものの・・・彼女の望みをかなえるのはまだまだ遠いようだった。

「王。我が身がどうなってもかまいません。
 今からでもこの装置を強化することはできないのですか?」
「残念ながら。いかにあなたの力が無尽蔵とは言え、それを使いこなすことはまったくの別問題。
 ただあなたの魔力を吸い上げる鎖の数を増やし、この魔法陣を大きくしてもその望みがかなうわけではないのです。
 あなたにできるのはこれまでと同じように、一定の力を提供していただくことだけです」
「そう、ですか・・・」
「何、我々もあなたに守られているばかりではありません。
 あなたの庇護のもと、我々も研鑽を積んで今日の魔物の群れを撃退するほどの力を手に入れました。
 あなたが犠牲にならずとも生きていける世界も、そう遠くはありませぬよ」

王はそう言ってティルティオラを慰めるが、彼女の顔から無念の色が消えることはない。
彼女はずっと悔やみ続けている。
力がありながら、自らの意思でその力を使うことのできない、自らの無能さを。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す