5大聖龍とその女達 164
「はい。そしてそれから私は今日までこの国、いえ世界が平和であるようにと祈り続けました。祈ることで少しでも幸せになってくれるのなら、という思いで祈り続けていたのですが・・・」
そこまで言ってティルティオラは悲しげに目を伏せた。
「やはり運命は私を許してはくれないようです。
暗黒大帝ゾーマの影響で魔物たちは活発化し、祈るだけではどうにもならない事態に陥ってしまいました」
「・・・だからあなたはこの巨大な結界を張るために自らを組み込んだのですか?」
『なっ・・・!?』
ラムサとメルディア以外のメンバーがその言葉に驚愕した。
当然だ。巨大な結界を張るというだけでも衝撃だが、そのために術者そのものを組み込むなど人権無視もいいところだ。
魔法は通常ではありえない、さまざまな奇跡を起こす神秘の技術。
それだけに魔法の使用にはかなりの体力・精神力を必要とする。
まして結界なんて維持しようなんて考えれば、その労力たるや想像もつかない。
しかも町1つ・・・それも王都なんて大きな町を丸ごとだなんて、もはや正気の沙汰ではない。
魔法に詳しいウルゥやエリアはそこまで言われてようやくこの部屋の異常さに気が付いた。
「ま、まさかっ・・・これ、この部屋そのものが結界を発生させるための魔法陣なんですか・・・?」
「ちょっ・・・冗談じゃないわよ〜?
こんな大規模な魔法陣を常時展開しているなんて〜。
普通なら1時間と持たずに魔力が枯渇して死んじゃうわよ〜!?」
「普通ならば、な。
だがこのティルティオラは『聖龍の紋章』。
操る技術はまるでないが、その魔力と生命力は群を抜いている。
だが・・・またずいぶんとバカなことをしたもんだな。
恩返しのためだか何だか知らんが、もうとっくに死んだ人間のためにそこまでするとは・・・。
我にはお主の考えることが理解できんよ」
あきれ果てるラムサとメルディアに、ティルティオラは苦笑を浮かべるばかりだ。
「私の生き方を理解してもらおうとは思っていません。
ですがこの都市を守ることが私のすべて。そのためなら私自身死ぬことになってもかまいません。
私だけの犠牲で済むのなら・・・」
「・・・つまりあなたの力だけでは抑えきれない状況になった、と?」
「・・・その通りです。実は最近魔物たちがここを襲う頻度が急激に上がっているのです。
今のところ城の兵士たちで何とか撃退できていますが・・・。
活発化している魔物たちは日に日に知恵と勢力を増しつつあります。
おそらく近日中に大きな争いが起こることでしょう」
「知恵!?魔物が知恵を身に着けているってのか!?」
聞き捨てならない言葉に、アレスが興奮した様子で割って入ってきた。
その一方でラムサとメルディアは『やはり』と言わんばかりに渋い表情を浮かべていた。
そんな中、ティルティオラがアレスの疑問に答える。
「すべては暗黒大帝ゾーマの力によるものです。
ゾーマの力はその強さゆえに生態系に影響を与えます。
特に凶暴で力を持て余し気味の魔物や欲の深い人間には効果てきめんでしょう」
「なんてこった・・・。それじゃこのままじゃ世界は魔物の天下になっちゃうじゃねえか・・・」
ゾーマの力は生態系に影響を与えるとティルティオラは言った。
今は血気盛んな魔物に限定されているが、いずれは害のないウサギや鳥も凶暴化して人を襲うようになるだろう。
その時、魔物がどれだけ恐ろしい存在になっているかなど考えたくもない。
一刻も早くゾーマを倒さなければ世界が滅ぶ。
魔物だらけの世界を想像し、背筋を震わせるアレスたち。
だが背筋が冷えるのはこれからのことだった。
突然1人の兵士が息を切らし、ティルティオラの前にやってきたのだ。
どうやら何か良くない、緊急の事態が発生したらしい。