5大聖龍とその女達 163
先程まで明るかった表情が徐々に曇り始める。
やはり自分の過去の話をさせるのは酷な事なのだろうか。
「話したくなかったら、別に話さなくてもいいんだぞ?」
「いえ、話させてください、アレス様。これは私のけじめでもあるのです」
一呼吸おいて、ティルティオラは話し始めた。
「ではまず、私の話をする前に皆さんはリブレイルという街をご存知でしょうか?」
「リブレイル?聞いた事ないけど?」
「どこにあるのさ、その街は?」
「・・・・・・」
リブレイルという単語を聞いた途端、アレスを含め、ほぼ全員が知らない、どこ?と答える。
ただ一人、メルディアを除いては・・・
「リブレイルはこの国から西の方角に行った先にありました。街の周りは山に囲まれ、林業が盛んな街です。そして何より温泉が有名で、いつも観光で賑わっていました」
「へぇ〜、そんな街があるのか。いつか行ってみたいな」
「温泉か〜、一度入ってみたいかも〜」
「でもティルティオラさん、何で過去形で話すんですか?」
ティルティオラの話にウルゥが疑問を投げかける。
そう、今までの話にティルティオラは過去形で話していたのだ。
まるで、今は存在しないかのような口ぶりで。
「それは、リブレイルはもうこの世には存在しないからですよ、ウルゥさん」
「えっ!?」
「やはり知っていましたか。流石は、聖龍の書を名乗る事だけの事はありますね、メルディア」
「どういう事なんだよ、メルディア!?もうこの世には無いって・・・」
「言葉のとおりですわ。はっきり言えば、消滅させたと言った方がいいでしょう・・・」
「消滅って・・・」
メルディアの発した言葉で、場の空気は一気に重くなった。
アレスたちは予想以上の話に戸惑いを隠しきれない
「皆さんはご存知かと思いますが、私の体には大量の魔力を有しています。今は大丈夫ですが、昔は体が耐え切れず、よく魔力が暴走していました。それは時に人に危害を加えるような時もありました。私はそれを避けるために、人との接触を極力控えてたのですが、リブレイルの街を訪れた時、今までに無い痛みに襲われ、痛みが消えた頃にはもうこの街は跡形もなく無くなり、辺り一面荒野でした」
「次に気付いた時はこの薄暗い牢屋でした。全身を鎖で縛られ、このまま一生をここで過ごすのもいいかとも思いました。しかし、彼女がそれを許さなかった」
「彼女?」
「彼女の名はマリア・オーミット・ル・シルヴィア。このクイーン・マリアの初代女王です。彼女は私にこう言いました、『たくさんの人を不幸にしたのなら、それ以上の人を幸せにしなさい』と・・・」
「ですが私にはラムサのような強さもなく、メルディアのように知識があるわけでもありません。ただあるのは大量の魔力だけ。そんな私には出来ることなどないと思ったら、彼女は私にただ世界が平和になるようにと祈ってほしいと言ったんです」
「祈る?」