5大聖龍とその女達 141
「・・・ん?おお、エリアさん・・・でしたっけ?
おはようございます。こんな朝早くから一体何のようですか?」
振り向いたとき、彼女の身体からは臨戦態勢にも似た、あの決意のオーラは消え去っていた。
エリアはものの見事に、肩透かしを食らった形になっていまった。
「あ、いえ。ちょっとあなたに聞きたいことがあったもので〜。
それよりメルディアさんこそ、こんな朝早くからどうかしたんですか〜?」
すばやく立ち直ろうと質問を返してみる。
するとメルディアはふっ・・・と陰のある笑みを浮かべて湖に視線を移した。
「私はここで、今まで自分の犯した過ちを反省していました」
「過ち、ですか〜?」
「はい。私は今まで『聖龍の書』として、その称号に恥じないように研鑽を積んできました。
他人より多くの知識を持っているとおごらないように。
その知識を正しく使えるように」
昔のことを懐かしむような口調で語るメルディア。
しかしそれは次の瞬間、苦悶と後悔の表情に取って代わった。
「だけど・・・そうじゃなかった!
私は知らず知らずのうちに知識におぼれ!
他人より勝っているというおごりから、とんでもない間違いをしていたのですっ!!」
「・・・『間違い』?」
もしやウルゥのことで、何かミスがあったのか?
エリアは目に剣呑な光を宿しながら言葉を促す。
だが彼女が嘆いているのは、それとは違うことだった。
「あなたも見たでしょう!?おぞましく姿を変えた、『迷いの森』の姿をっ!」
それは言われなくてもよくわかっている。
何しろ彼女自身、危うくあの森の犠牲者になるところだったのだから。
沈黙するエリアをよそに、メルディアの告白は続く。
「私の作った『迷いの森』はああじゃなかった!
方向感覚を狂わせるマヨイダケに、惑わされず森を抜ける知識があるかどうかを試すのが本来の目的だったのに!
私の見通しが甘かったゆえに、魔物に都合のいいエサ場として利用されてしまっていた!!」
聖龍と呼ばれるほどの知恵者が、魔物に利用される。
それは彼女にとって、どれほど屈辱的なことであろうか。
彼女の言葉の端々からこぼれる彼女の激情に、エリアは何も言えなかった。
言いたいことを言って少しは気が晴れたのか。
メルディアから怒りが消え、再びあの表情に戻る。
悲しみを帯びた、あの表情に。
「まったく・・・私としたことがとんだ大マヌケですよ。
あなたたちがいなければ、私は知らず罪を重ね続けていたことでしょうね」
「・・・・・・・・・」
メルディアの一連の様子に、エリアは大なり小なり同情してしまう。
ウルゥのことで問い詰めるべきではないのでは、とすら思ってしまう。