5大聖龍とその女達 119
そして2人きりになったメルディアは、エリアたちの消えたドアを苦笑しながら見つつ、話を始めた。
「ずいぶんと好かれているのね?人間からも、そうでない存在からも」
「・・・っ。何の、ことだ?」
メルディアの言わんとすることに、アレスは内心の動揺を必死に隠しながらとぼけてみせる。
しかし相手は聖龍の『書』と呼ばれるほどの知恵者。
そのようなうそなど、通じるはずもなかった。
「隠さなくても大丈夫。
あなたが私の力を借りたいのは、小柄な娘の中にいる悪いモノを何とかしたいからなのでしょう?」
「・・・・・・。なんで、わかった?」
「あらあら、知恵者と名高い聖龍の書を甘く見てもらっては困るわ。
私は剣であるラムサのような強さの代わりに、ありとあらゆる知識を持っているのよ?
理解や分析なんて私にとって簡単なことよ」
あっさりと真実を見破ったメルディアに対し、アレスはその場でひざをつき、頭を床にこすり付けて精一杯の誠意と謝罪を見せた。
それはアレスの人生の中で初めての土下座であった。
「アンタに真実を告げなかったことは謝る!
だけどオレは、ウルゥに寄生しているあの魔物の呪縛から解放してやりたい!
そのためにはどうしてもアンタたち聖龍の力が必要なんだ!
どうかその力をウルゥのために貸してほしい!」
それはアレスにできる精一杯の謝罪と願いだった。
できれば力ずくなんて手段に出たくはないが、いざとなったら強硬手段に出ることも辞さない覚悟だ。
他人に土下座までして、ダメだとわかれば力ずくなんて、誰の目から見ても最低の行為だろう。
アレス自身も、そのことは十分に承知している。
しかしここで自分のすべてを投げ打ってウルゥを助けたとしても、また同じ悲劇が起きないとも限らない。
何しろ、ここに来るまでにエリアとマリーも魔物に操られるという事態に遭遇している。
結局はこれらの騒動の大元、暗黒大帝ゾーマを倒さない限り、一時しのぎにしかならないのだ。
そのためにもアレスはあえて『何でもする』とは言わず、『力を貸してくれ』とだけ言った。
しかしこのような頼みにメルディアは受け入れてくれるであろうか・・・?
重苦しい沈黙の中、メルディアがゆっくりと、罪人に判決を言い渡す裁判官のように答えを返した。
「頭を上げなさい。大の男の子が簡単に頭を下げるものではないわよ?」
「・・・それじゃあ・・・!」