元隷属の大魔導師 99
「ふんっ。あんたも人の子だったんだねぇ〜……あんなに動揺しちゃってさっ。キシシ……」
「けっ……下品なお姫様だな?この国の底も知れるってもんだ」
「……お姫様?」
デルマーノの発した単語にアリアは反応するが、当のウルスラは苦虫を噛み潰したように眉をひそめる。
「お姫様って言うなっ!」
「イヒヒ……散々、笑ってくれた礼だよ。ざまぁみやがれ、プリンセス。イッヒッヒッ!」
「ムカつくぅっ!ベェ〜〜、だっ」
舌を出し、悪態を付くウルスラを背にデルマーノはパタンッ、と扉を閉めた。
「デルマーノ……ちょっ、ちょっとぉ!」
アリアは隣をスタスタと歩くデルマーノを呼び止める。
二人は今、教会から見て王女達の泊まっている宿の反対方向、繁華街へと向かっていた。
島とはいえ、流石はワータナー諸島王国の城下町。
なかなか人通りも多い。
「………はぁ〜、アリア。お前のおかげでとんだ失態を演じちまった。予定じゃ、夕飯の時間だったんで俺の関係者じゃあねぇと思っていたんだがな」
「それは……ごめん。でも………デルマーノは何も言ってくれなかったから……」
「いや、そりゃ………」
デルマーノは口ごもった。
彼らしくないとは思いながらもアリアは続く言葉を待つ。
しばらく、言葉を出しては飲み込み、を繰り返していたデルマーノも口を開いた。
「俺ゃ………奴隷出身だ」
「?……知っているわよ、そんな事は」
「まぁ、アリアにとっちゃ、んな事かも知れねぇがな………シュナイツの、いんや……カルタラの殆どの貴族達にゃ、奴隷出身の奴が貴族様の中に紛れるのは『そんな事』じゃあねぇんだ」
「………でも、だからってそれを理由に予定外の行動をするなんてあなたらしくないわ」
「ああ。もちろん、別にんな安直な事で宿を変えた訳じゃねぇよ。実際、シュナイツじゃ俺は普通に王宮を歩いているしな。ただ………」
デルマーノは立ち止まると通行人達をキョロキョロ、と見回す。
アリアは不信に思うが、彼は気にした風もなく耳を貸せ、と身振りしたので素直に従った。
「………ただな、奴隷を嫌悪してんのは貴族の話しであって民衆は違う。んま、大抵の奴らは貴族と同じで俺達を嫌っちゃいるが……例外もある」
アリアの耳元で囁くように話すデルマーノは右の人差し指で地面を指差す。
一瞬、疑問符を浮かべるアリアだが、はっ、となり辺りを見回した。
「ま、まさか?」
「そうだ。この国、ワータナー諸島王国はカルタラでも珍しい気質でな、奴隷出身者なんかよりよっぽど王族や貴族、騎士連中が大っ嫌いなんだよ」
「それじゃあ………さっきからちょくちょく、歩いている人達が殺気じみているのは……」
「ああ、俺達が騎士や魔導師のマントを着けているからだな。ワータナーのじゃあねぇから手は出さないが……」
「……そ、そうなんだ………」
内心、冷や汗をかきながらアリアは頷く。