元隷属の大魔導師 100
「でも………私は何度もこの国に来たことがあるけど……知らなかったわ。襲われたこともないし……」
「そりゃ、そうだ。毎年、毎年、シュナイツが来る度にワータナーは国ぐるみでこの事を必死で隠蔽しているんだからな。それで、だ。話しを戻すが……」
「そ、そうよ。あなたが宿に泊まらない理由は?」
「今回、シュナイツから来たのは三百人弱。ほぼ、全員が貴族だ。その中で俺を嫌ってねぇのは何人だ?」
「………ご、五十人……くらい?」
「気を使わなくていい。正解はその半分にも満たねぇ」
ふぅ、と一度、デルマーノは息を吐いた。
「しかし、生徒や教師共……騎士の大半もだろうが、俺に直接文句を言う奴はいないだろうな」
「それは……そうでしょ。あなたの武功は生徒達も知っているもの」
「そうすると……大概の奴らは影で、俺に聞かれないよう悪口を言う。相当な阿呆でもない限り、俺には聞かれないが……他の、聞かれちゃならない奴に聞かれちまう」
「?………誰?」
「……宿の使用人や料理人までシュナイツから連れてきてる訳じゃないだろう?」
「あっ……この国の人達っ!」
「正解。まぁ、国賓相手に使用人してるんだからこの国の中でも穏健派ではあるんだろうが………それでも用心に用心を、だ。だったら、俺がいないのが一番だろ?」
「………なるほど、ねぇ〜」
アリアは納得しながらも、少し悩んでしまう。
国や同盟と言いながらも何処も彼処もバラバラではないか、と。
「………また、面倒な事を考えてんだろ。顔で分かるぞ?」
「で、でも……」
「けっ………一騎士が何を思おうが変えられるモノは大してねぇよ。それより……飯だ、飯。腹が減ってはなんとやら、ってなぁ?イッヒッヒッ……」
デルマーノはポンポン、とアリアの肩を叩くと辺りを見回し、近くにあった酒場へと歩いていった。
アリアも慌てて、その後を追う。
キィ………
古く乾燥した木の扉を潜り、デルマーノは酒場へと足を踏み入れた。
アリアは『捕鯨の銛』と書かれた看板を確認する。
デルマーノに続き、店へと入った彼女は数歩進んだところでピタリ、と立ち止まった。
「ね、ねぇっ!デルマーノ………」
「あん?」
「この店は……その………」
アリアは口ごもってしまったが、デルマーノにも彼女の言いたい事は分かっている。
カウンターは全て埋まり、また八つあるテーブルの内、五つには料理が並べられていた。
店員は主人と給仕の娘が二人。
なかなかの賑わいをみせている。
だが、アリアが指摘したいのはそんな事ではない。
大部分の客がアルコールで濁った目の中に敵意を燃やしているのだ。
「……………この国じゃ、どこもこんなモンだぜ?」
「でも………」
「イッヒッヒッ……気にすんな、気にすんな」
デルマーノはアリアにそう小声で囁くと、給仕の娘に空いているテーブルを尋ねた。
デルマーノは娘の答えを聞くと、その席に着いてしまう。