元隷属の大魔導師 98
ウルスラはアリアが赤面し、口ごもったことから推測した。
そのストレートな言葉にアリアは言葉を失う。
そんな彼女をウルスラは頭から足まで眺めると、ケラケラと笑い、言った。
「ふふっ………アリアさん、あんたも物好きねぇ〜」
「………は?」
「シュナイツじゃ、騎士様で貴族様ならモテるでしょうに…………モテてたでしょ?」
「そ、それは……まぁ、それなりに………」
シュナイツじゃ、という言葉に疑問を感じたアリアだが、素直に答える。
「なのに、あの奴隷野郎を選ぶなんて………ふふふっ、イイ目してんじゃん」
「えっ?………?」
アリアはウルスラに疑惑の目を向けるが、彼女はにたぁ、と笑い、アリアの背中を叩いた。
コンコンコンッ………
司教がいるような大きな教会ではない。
アリアが何かを言う前にデルマーノがいるであろう部屋の前に着いていた。
「し、ん、ぷ、さ、まぁ〜っ!聞いて下さいよ。誰が来たと思います?」
ノックをしたウルスラは返事も待たずに部屋へ入るとこの教会の司祭であろう老人の元へと駆け、ご機嫌に尋ねる。
デルマーノは司祭の向かい、つまり扉を背に座っていた。
「………誰だったんですか?」
既に齢六十を越えているであろう司祭は皺だらけの顔に柔和な笑みを浮かべ、ウルスラに問う。
デルマーノは円い机の上に乗ったティーカップを持ち上げ、口を付けようとしていた。
「うふふ………デルマーノのお、ん、なっ」
ごふうぅっ!……げほっ、げほっ………
デルマーノは口内のお茶を盛大に吹き出す。
司祭やウルスラのいない方向へ飛ばしたのは流石と言うべきか。
「んなっ、バカ……な?………」
デルマーノはシャツの袖で口元を拭うと慌ててウルスラの入ってきた、即ちアリアが立っている方を振り返った。
「ア、アリア………」
「デルマーノ……その………ね?」
「ぷっ!……あっはっはっ…………デルマーノ。あんたの今の顔、サイコォ〜」
アリアを見つめ、呆然とするデルマーノを指さしウルスラは腹を抱えて笑う。
「いやぁ〜……『ア、アリア……』だってっ!くくくっ……」
「ウルスラ、客人に失礼ですよ」
「はぁい、すいませんでした〜。でも……くふふっ」
「………はぁ、仕方のない子ですね。ウルスラ、あちらの女性にお茶を……」
「いや……そりゃ、結構だ」
平静を取り戻したデルマーノは老人に向かって手を振った。
「はい?」
「今からちょっと、出てくる。俺を待たずに寝てくれて構わねぇから………」
「そうですか。では裏口だけは開けておきます」
「悪ぃな」
そう言うとデルマーノは椅子から立ち上がり、背もたれに掛けてあった近衛魔導師隊のマントを羽織る。
「アリア……晩飯はまだだろ?」
「えっ?ええ………」
「俺ゃ、食ったが付き合うよ」
「ちょっ……デルマーノ?」
身嗜みを調えたデルマーノはアリアの立つ扉へと進むが、とっ、と歩みを止めると振り返った。
「ウル。おめぇは笑いすぎだ」