元隷属の大魔導師 87
「ごくり………」
フローラは唾を飲む擬音をあえて口にする。
ヘルシオの話しを聴き入っていた一同は苦笑いをした。
「………不死の儀式を行う、ということです。現在、この大陸にその儀式の詳しい方法を知っている者はいません」
「正確に言うと………」
ヘルシオの説明をデルマーノが補足する。
「いない、という事になっている。大陸各国は不死の儀式を禁じているからな。だが……実際に俺は真血種の吸血鬼を見たことがあるし、そいつはまだ、若い真血種の吸血鬼を連れていた。これがどういう事か分かるか?」
「大陸に少なくても一人はその……不死の儀式の方法を知っている者がいる、って事?」
「正〜解」
アリアの答えに満足したようにデルマーノは笑った。
そしてヘルシオに後を続けるよう、促す。
「こほんっ……今、デルマーノさんが言った通り、正しい方法で儀式を行うと真血種の吸血鬼になります。隷属種が強力な筋力と再生能力を得るのに対し、真血種は加えて高い魔力、ほぼ完全な不老不死、そして配下の隷属種達への絶対的な命令権を得ます。史上最強の吸血鬼、グレイニル伯などはたった一人で一国を滅ぼした、とも言われています」
そう言い終わるとヘルシオはふぅ〜、と息を吐き、どうですか?と目でデルマーノに尋ねた。
デルマーノはニヤリ、と笑い頷くと口を開く。
「んまあ………満点だわな。いつでも魔導学院の教師になれるぜ」
「あ、ありがとうございますっ」
「ま、結論を言やぁ……真血種と会ったら戦うなっつーことだ。まず、普通の人間は勝てねぇ」
「………デルマーノ、貴方でも?」
「アリア、俺は無敵かなんかと勘違いしてねぇか?真血種相手に勝てんのはジジイくれぇなもんだ」
自信家だと思っていたデルマーノのその発言にアリアは驚いた。
「イヒッ、ところで真血種の由来だが……実は例外もある」
デルマーノは自分で解説を始めた。
「例外?不死の儀式をしてない真血種がいるの?」
アリアの質問に、質問で返すデルマーノ。
「そうさ。真血種にも性別がある。どういう意味か、わかるか?」
アリアとヘルシオが数秒間、考え込む。
ヘルシオは、はっ、と悟った表情になり、答えた。
「ひょっとして……通常の生殖、ですか?」
「大〜正〜解。元の種族が同じか近ければ、妊娠出来ることもあるそうだ。報告例は稀だから、生殖否定説を掲げてる奴らも多いけどな」
デルマーノはイヒッ、と笑うとエリーゼを見た。
エリーゼはビクッ、と肩を震わせる。唇が震えていた。
ヘルシオの説明を聞き、余計に畏縮してしまったのだ。
「……。………姫様?」
「ななな、何だ?」
「やはり吸血鬼の城に一人で入るのは危険かと……」
「……ア、アリア。でも………」
「そうだぜ、エリーゼ姫。怖いんだったら止めても何ら問題ねぇ。王族に二言はないらしいがな?イッヒッヒッ……」
「ちょっとっ。デルマーノッ!」
救いを求めるようにアリアを見たエリーゼだったがデルマーノの言葉に顔色を変える。