元隷属の大魔導師 86
意地悪気に言うデルマーノの言葉にエリーゼは一瞬、ビクついたものの睨みつけて言った。
「じょ、上等じゃない。いいわ、やってやろうじゃないのよっ!」
「イヒッ。その言葉、嘘じゃねぇな?」
「王族は嘘を吐かないわ!」
アリアは、はぁ、と溜め息を吐く。
エリーゼは昔から負けず嫌いなところがあり、ちょっとした挑発にも乗ってしまうのだった。
「だ、第一………いないモノを怖がるなんてありえないわよっ」
「あん?ちょっと、待て。何がいないって?」
「?……勿論、吸血鬼よ。あれって伝説で空想の産物でしょ?」
「…………いるぞ、吸血鬼は」
「「ええっ?」」
今までデルマーノとエリーゼの口論を傍観していたアリア達もその発言に驚きの声を上げる。
「ちょっ、ちょっと待ってデルマーノ……いるって本当?」
「おいおい、アリア………お前までんな事、言ってんのかよ?いるに決まってんだろ。俺、会ったことあるし……」
「え?会ったことって………」
「ジジイの知り合いでな。真血種に会った。三年くれぇ前だったかな……」
「デ、デルマーノ……貴方………」
「はいは〜いっ、質問。真血種って何?」
信じられない情報を平然と言うデルマーノに驚きを通り越し、呆れるアリアをよそにフローラが手を上げ、質問した。
「ん〜、そうだな……ヘルシオ。お前、分かるか?」
「わ、私ですかっ?」
「どこの魔術学院でも教えてっから知ってるとは思うんだがな。真面目に授業を聞いていたら、の話しだが」
「………勿論、知ってます。が……」
「んなら、説明しろ。別に吸血鬼の話しをしたからって本物が現れるわけじゃねぇ」
「は、はい……」
すぅっ、とヘルシオは息を吸い込むと話し始める。
「まず………吸血鬼は他の妖魔とは絶対的に違う点が一つあります。それは……吸血鬼は固有の種族ではなく他の生物が変異した生物なのです」
「ん〜……と。ヘルシオ君、簡単に言うと?」
ヘルシオは講義通りの内容は口にするがそれは小難しい教科書の暗記であり、フローラは理解出来ず首を傾げた。
「つまり、吸血鬼はある特定の行為を行うとなる、と言うことです。例えば吸血鬼は牙以外、人間の姿をしていると伝えられてますが、それは人間が吸血鬼になったモノで、中にはエルフやドワーフの姿をしたモノもいる、と言われています」
「へ〜……じゃあさ、ドラゴンの吸血鬼とかもいるの?」
「それは……理論上はいるでしょうね。まぁ、聞いた事はありませんが………次に真血種とは何か?ですが、それは先程言った吸血鬼になる方法が関係しています。吸血鬼になるには二つの方法があります。一つは吸血鬼に噛まれる事。これは皆さんもご存知でしょう?」
「うん。伝説とかだとどんどん吸血鬼が増えていくんだよね?」
「そうです。しかし、噛まれて吸血鬼になった者達は隷属種と呼ばれ、吸血鬼の中でも最弱の種なんです。ここで出てくるのがもう一つの方法」