元隷属の大魔導師 80
腰の袋から取り出した短剣を使い鳩をバラしていくデルマーノを指差し、フィリムは口をパクパクとさせる。
「………?」
「私の……裸をっ!」
「ああ?………ああ、見た見た。だけどよ、治療しなきゃいけなかったんだ。仕方ねぇだろ?」
「うっ、確かに……し、しかしっ…それとこれとは……」
「イヒッ。その反応、生娘だったのかよ?」
「あああ、当たり前だっ!私は誇り高いフィンドル家の長女だぞっ?」
「そりゃ、悪ぃ事したな。イッヒッヒッ……まぁ、二十歳にもなってギャアギャアと騒ぐ女に男が出来る訳ゃねぇか?」
今、手元に武器があればこのデリカシーのない男を刺し殺しているのに、とフィリムは馬鹿笑いするデルマーノを睨む。
が、ふと彼の言葉に引っかかった。
「……私は……お前に私の年齢を言ったか?」
「あん?言ってねぇが?」
「な、なら……何故、私の歳をっ?」
「そりゃ、調べたからさ。ターセルから帰った後にな。フィリム・エル・ラ・コントラント・ド・フィンドル。翼竜騎士団の中隊長にして名門フィンドル家の長女。違うか?」
「………合ってる。いや、合ってたと言うべきか?」
「ああっ?そりゃ、どういう――」
「ターセルでの任務失敗を機に私は追い出されたのだ。翼竜騎士団からも、フィンドル家からもなっ」
「は?」
「〜〜!分からない男だなっ!乗っ取られたんだ。腹違いの弟達にっ。ああっ!思い出しただけでも腹が立つっ!だから今の私は名前だけはフィンドルだが家とは関わりもないし、部隊も第三独立部隊なんだ。分かったかっ?」
「………もしかして、だけどよ。根本的な原因は俺か?」
「ほう、分かっているではないか。その通りだ」
「なんか……ごめんな」
「謝るなっ!別にデルマーノを恨んでいる訳ではないっ」
名門出身の騎士らしくフィリムは己の失敗を他人の所為にする愚行は犯さない。
左遷されたのも家を乗っ取られたのも自身の失敗の所為であり、たとえ間接的原因がデルマーノによるものだったとしても恨むつもりは毛頭なかった。
「…………」
「…………」
一度、会話が途切れると元は敵同士、話すことができなくなる。
薪が爆ぜる音だけが洞窟内に響いた。
その時、フィリムの鼻孔にデルマーノが先程、捌いた鳩の焼ける匂いが漂ってきた。
きゅっ……きゅるるぅ……
「っ!」
フィリムは急に鳴った己の腹を押さえ、赤面する。
そして、もしかしたら聞かれていないのではないか、という淡い期待を込め、チラリ、とデルマーノを見た。
「っ………〜〜〜っ!……ぅ………」
笑っていた。
しかも、声を立てぬよう口を押さえ、転げ回っている。
「わ、笑いたければちゃんと笑えっ!」
「いっ……ひひっ…いいのか?………んっははっ……」
「いいっ!声を立てられないと余計に腹が立つっ!」
「な、ならっ……お言葉に甘えて………〜〜〜ッイッヒッヒッヒャッヒャッヒャッ…」
目の前で手を叩き、腹を抱え笑う男に顔をヒクつかせながらもフィリムは我慢した。