元隷属の大魔導師 77
「ひ、姫様!私は、その……」
「何っ?」
「………デルマーノを愛しています」
「……ぇ?」
「ですから、釣り合うとかどうとかではなく……いえっ。勿論、姫様のお心遣いはありがたいのですが……あの………」
「………………」
エリーゼは俯くと黙り込んだ。
「姫様?」
「………ひっぐ」
エリーゼは、ばっ、と顔を上げると潤んだ瞳でアリアを睨み、嗚咽を漏らす。
「ひ、姫様っ!」
「うわ〜〜ん………アリアの裏切り者ぉ〜……」
声を上げ、泣き出したエリーゼは走って王宮の中へと消えていった。
後でしっかりと説明しなきゃ、とアリアは走り去るその背中を見てそう心の中で漏らす。
しかし、今は緊急事態だ。
ドレスを着替えようとアリアは駆け出した。
「ぶぅぇっくしょんっ!」
月のない夜を高速で飛行するアルゴの背でデルマーノは盛大にくしゃみをした。
「グゥ?」
「いや……多分、俺の悪口を誰かがいってんだろ?」
「………クルウゥ」
「まぁな。俺ゃ、敵が多いからな」
「ゴオォッ……」
「ヒッヒッ……ありがとよ。アテにしてんよ。さぁて……もう、そろそろ高度を下げろ」
「オォゥ……グォ!」
ぐんっ、とアルゴは地へ身体を向けると急降下する。
そして、地面すれすれのところでブレーキをかけ、降下を止めるとそのまま木々の間を低空飛行した。
ヒュンッ!………ヒュンッヒュンッ……
風切り音がデルマーノの耳を突く。
しばらく飛ぶと森を抜け、小高い丘の麓へと着いた。
水の流れる音が聞こえる。近くに川があるのだ。
「うしっ……アルゴ、ここでいい。待っててくれ」
デルマーノの命にどしっ、とアルゴが地に足を着けた。
「………ゥルン?」
「あん?そうだな……何かあったら後から来るアリア達に伝えてくれ」
「ゴオゥウ!」
「悪いな。じゃあ、行ってくんよ?」
デルマーノはそう言うと、足音を立てず、駆け出すと丘を登っていく。
走りながらもデルマーノは呪文を唱え、『不可視』の魔導を己にかけた。
デルマーノは三分程で丘の頂上へと辿り着く。
そこには二つの影がいた。
一つは人影、もう一つは翼竜である。
「あいつは………」
そこにいたのはデルマーノが知っている顔であった。
たしか……ターセルで会った『翼竜騎士団』の隊長だ。後でアリアに聞いた名前は、フィリム・フィンドルであったか。
音も無く近付こうとしたデルマーノをフィリムがギンッと睨みつけてくる。
「っ?」
「出てこいっ。いるのは分かっているっ!」
フィリムの怒鳴り声にデルマーノは諦め、『不可視』の呪文を解いた。
「貴様は……デルマーノッ?」
「けっ、名前を覚えていたか。しかし、なんで分かった?」
「ふんっ……魔導師は貴様だけではない」
そう言うとフィリムは突撃槍(ランス)を掲げる。
その突撃槍の石突きに赤い宝石が埋め込まれていた。
デルマーノはその宝石から魔力を感じる。
「お前………魔導師だったのか?」