元隷属の大魔導師 76
「レビュー卿。どういうことだ?」
「はい、陛下。彼らはシンシア様、及びその姫様達を狙った刺客です。先日、今回の舞踏会で襲撃があるという情報が耳に入りまして、対策を打たせていただきました。彼らは恐らく……」
「クレディア、の者か……」
「はい」
「ふ、む………」
セライナは腕を組み、考え込んだ。
アリアはふっ、と辺りを見渡すと事情の分からない出席者達が騒ぎ始めていた。
トードレルはパンパン、と手を打つと彼らに解散を告げる。
首を捻りながらも貴族達は一人、また一人とホールを出て行った。
アリアは違和感を覚える。
デルマーノが見当たらないのだ。
政治には興味のないアリアはドレスの裾を持ち上げると走り出した。
こう言うときにはいつも彼は『あそこ』にいる。
「デルマーノ……」
アリアが馬屋に辿り着いた時にはデルマーノはアルゴに跨っていた。
「よう?今日はまた、一段と速かったな」
「もうっ、茶化さないで……どこに行くの?」
「奴らを尋問したら運び役との待ち合わせ場所を吐いてな。今からそこに行くんだ」
「私も行くわっ」
「その格好でか?イッヒッヒッ……」
「あっ………」
デルマーノはアリアを上から下へと見て、言う。
「着替えたら後を追ってこい。場所は衛兵に聞け」
「うぅ……分かったわよ」
アリアは今の自分の格好を恨めしく思い、口を尖らした。
「でも……」
「あん?」
「気を付けてね?」
「イヒッ……勿論だ。無理をする気はねぇ」
「デルマーノ………」
アリアは爪先立ちになると目をつぶる。
デルマーノは身を屈めるとアリアにそっ、と唇を落とした。
「んっ……」
「じゃあ、行ってくんよ」
「うん♪」
デルマーノはアルゴの首をポンポン、と二回叩く。
アルゴは翼をはためかせると闇夜へ急上昇していった。
あっ、と言う間に愛しき彼を乗せた黒竜はアリアの視界から消える。
「デルマーノ………無事でいてね……」
アリアはアルゴの影が見えなくなってもその飛び去った方向を見つめ、そう呟いた。
その時……
「ア〜リ〜ア〜ッ!」
不機嫌な少女のモノと思われる声がアリアの耳に飛び込んだ。
「っ?……ひ、姫様?」
そこには己を睨みつけるエリーゼの姿があった。
「私は見ていたわよっ?アリア、貴女………あの下郎と……キ、キスをしていたわねぇっ?」
「は、はい……」
「アリア!王宮でなんて……はは、破廉恥なっ!」
「しかし……デルマーノと私は父上も認めた仲で……」
「アルマニエ候が?えぇいっ……血迷ったのっ?」
「あ、あの……姫様?」
そうだった。
エリーゼはデルマーノの事が大嫌いだったのだ。
「デルマーノめぇっ!よくも私のアリアを!」
「えっ…と……」
「それにしてもアリア!酷いじゃない!私に何の相談もなく!」
「……す、すみません」
「だいたいアイツじゃ、釣り合わないわっ!アリアにはもっと相応しい男性がいるはずよ!」