元隷属の大魔導師 78
「ふふっ……以前とは立場が逆になったな。それにしても、貴様が来たということは奴らは失敗したか……」
「はんっ……あんな杜撰な計画が成功すんとマジで思ってんのか?」
「いや……平和ボケしたシュナイツにも真実の目ぐらいは警備でいるだろう?だから私は反対だったのだ」
「そうか。なら、来なきゃ良かったのにな?悪ぃが拘束させて貰うぞ?」
「…………私がタダで捕まるとでも?」
フィリムはそう言うと突撃槍を構えた。
「はっ……もう一度、負けるか?あん?」
デルマーノは戦闘槍を偽装した魔導杖で己の肩を叩いた。
チリチリ、と二人の間で魔力が衝突し合う。
「……風よっ!」
フィリムのかけ声に従い圧縮された四本の風の刃がデルマーノに襲いかかった。
「けっ……光よ、促せ……」
デルマーノは風の刃を己を取り巻くような光の奔流に沿わせ、受け流す。
在らぬ方へ飛んだ風の刃が大地を岩を削った。
その威力は直撃したら死を免れないだろう。
(めんどくせぇ……無詠唱で即死魔導を撃てんのかよ。素人じゃねぇな、おい)
一般の兵達には勘違いされがちだが、魔導師同士の戦いでは手数が勝敗の決め手となる。
フィリムがそれを理解していることにデルマーノは舌打ちをした。
「鎚よっ!」
「………氷河の盾」
「ちぃっ……穿てっ!」
「……光魔の剣よ」
フィリムの猛攻にデルマーノは次々と防御魔導を放ち、防いでいく。
その間にフィリムを分析していった。
(ヒッヒッ……得意なのは風の系統のみ。しかも特殊な魔導はナシ、と……魔力もタダ漏れだしな……読みやすいし、限界も近いだろう)
そのデルマーノの評価は的を得ていたのかフィリムの顔に焦りが見え始め、明らかな疲労が窺える。
「おのれっ!………暴風王の鎧となれっ!」
その呪文と共にフィリムの周りを風が取り巻いた。
腕に足にと巻き付くように轟音を立て、風が巡る。
ちゃき、と突撃槍を構えフィリムは言った。
「風の加速により私の槍はお前を貫く。避ける事も防ぐ事も不可能だ」
「………で?」
「………言い残したい事があるなら聞いてやる」
「ヒッヒッ………んなもん、ねぇ。イッヒッヒッ!」
デルマーノは舌を出し、下品に笑う。
「そうか………なら、死ねぇっ!」
どんっ、とフィリムは地を蹴ると一瞬で最高速へと達し、デルマーノ目掛けて飛んでいった。
それはまるで一陣の風。
フィリムの突撃槍は吸い込まれるようにデルマーノへと向かう。
そして……
ヒュンッ!……ドォッ!
フィリムは確かな手応えを感じ、停止した。
見ると突撃槍はデルマーノの胸を深く貫いている。
「………惜しい男を無くしたな」
フィリムが目を閉じ、そう言ったその時……
ピキッ………ピキピキ……パリンッ!
ガラスの割れたような音と共にデルマーノが砕けた。
「っ?………こ、これは……氷?」
破片を掴み、何か察したフィリムは辺りを警戒する。
「右か?……左か?……」