元隷属の大魔導師 74
「あら?心配だったの?」
「っぅ……ま、まさか。奴らの事なんか知ったこっちゃねぇ」
「ふふっ」
アリアが悪戯っぽくデルマーノの顔を覗き込み、笑う。
アリアはデルマーノに彼女らを気に掛ける優しい一面があり、尚かつ、彼がそれを隠そうとしているのを分かっていて、からかってみたのだ。
そのアリアの思惑に気付いたのか、デルマーノは照れ隠しにガシガシ、と頭を強く掻いた。
「……デルマーノ」
「何だ?」
「か〜わいい♪」
「ぅぎ……」
アリアはデルマーノの厚い胸板を人差し指でつつく。
デルマーノは悔しそうに溜め息を漏らした。
アリアは満足そうににんまり、と口端を上げ、首を少し傾げる。
デルマーノは赤く頬を染め、一度その頬を指でかくと、そっ、とアリアの赤い髪を撫でた。
アリアも愛しき魔導師へと体重を預ける。
そう、二人が甘い空気に陥ろうとした、その時……
「っ!」
デルマーノの行使する『真実の目』が反応し、彼の網膜内で対象を赤く染める。
「アリア、来たぞ……」
「えっ?」
「自然に近付くぞ。自然に、だ」
そう言うとデルマーノはアリアの左手を取り、王族席へエスコートした。
「デ、デルマーノ……」
「何だ?」
アリアは周りが不審に思わないよう、まるで雑談を持ちかけるかのように質問する。
「………何人?」
「二人だ」
そう言いながらデルマーノはアリアにも『真実の目』の魔術を付与した。
アリアの目に王族席へ近付く赤い人影が二人、写る。
「俺が席に近い方を拘束する。アリアはもう一人の方を頼む」
「分かったわ」
アリアは一度、腰の短剣を叩き、頷くとデルマーノから離れていった。
デルマーノはそのまま、素知らぬ顔で王族席へと歩を進める。
「………女王陛下。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
デルマーノはセライナの前に来るとさっ、と魔導師の礼を取った。
視界の隅にはしっかりと『不可視』で身を隠している赤い影を捉えている。
「これはデルマーノ。楽しんでおるか?」
「ええ。大変、楽しゅうございます」
「うむ、そうか。それは良かった」
セライナはそう言うと、微笑んだ。彼女はデルマーノがお気に入りなのだ。
しかし、その隣でぶすっ、と不機嫌そうに膨れる少女が一人。
第一王女エリーゼだ。
「これはエリーゼ様。お元気そうで……」
そのデルマーノの猫を被った態度は彼の本性を知るエリーゼを苛つかせた。
「…………」
「エリーゼ様?」
「くぅっ……あ、ありがとう。貴公も元気そうね」
額に青筋を浮かべながらもエリーゼはデルマーノにそう応える。
彼女は笑みを見せようとするが目が笑っていなかった。
そんなエリーゼの反応にデルマーノは彼女にだけ分かるように口の端を上げる。
エリーゼは持ったワイングラスをギリギリ、と強く握った。
その後、デルマーノは第二、第三王女へと順に挨拶をしていく。
そして次にシンシアの前に来た。
「シンシア様。姫様方も……シュナイツには慣れましたか?」
「あっ、デルマー……痛っ!」