元隷属の大魔導師 73
「ああっ。あれね!」
「おう。そして、監視対象は王族。一応、今はジジイが監視してるが光魔導は俺の方が燃費がいいからな。もう、そろそろ交代すんよ」
デルマーノはそう言うとホール北側、王族の席へと歩き始めた。
アリアも彼に着いていく。
「…………別に着いてこなくてもいいぜ?」
「……それは着いていっても良いってことでしょ?なら一緒にいるわ」
「しかしな………俺ゃ……」
デルマーノは口ごもる。
その時、アリアの耳にヒソヒソと話す辺りの貴族達の声が聞こえた。
「…見て………野犬デルマーノよ……」
「…嫌ねぇ……陛下も何をお考えなのか……」
「しっ……こっちへ来たわ……」
デルマーノが行く手の人混みが割れていく。
「なっ?離れていた方がいいぞ?」
ボソッ、とデルマーノはアリアに囁いた。アリアを思っての台詞である。
アリアは顎に手を置き、少し考えるとぐっ、とデルマーノの左腕を抱いた。
「「っ!」」
周囲の貴族達から驚きの声が漏れる。
「おいっ………」
「良いじゃない。父上にも認められた仲だし……」
「だがな……」
「いいの。私が良いって言ってるだから……心配しないで……」
そう言うとアリアはふふっ、と楽しそうに笑った。
「けっ……物好きな女だな。イッヒッヒッ………だが、腕は一旦、放してもらえるか?」
「えっ?」
「その、な……胸が当たってんだ……」
「へっ………ああっ、ごめん!」
アリアは頬を朱に染め、慌てて抱いたデルマーノの腕を放す。
そして、改めて彼の肘に腕を通した。
二人は寄り添いながら歩き、王族の席から少し離れた所に立ったノークへと近付いていく。
「これは騎士殿。見違えましたな……」
「ノーク殿。お久しぶりです」
アリアはスカートの裾を掴み、淑女の礼を取った。
ノークもそれに魔導師の礼で応える。
「けっ………ジジイ、異常は?」
「ない。宮廷魔導師が幾人か近付いた時に反応したが問題はなかったぞ」
「そうか……代わんよ。老い先短いジジイにゃありがてぇ、柔らかい食事を十分、堪能するといい。イッヒッヒッ……」
「ふんっ。減らず口を……まぁ、その言葉に甘えるとするかの」
そう言うとノークは人混みへと消えていった。
「もうっ。アナタは……せっかく、気を使うんだったら素直に優しい言葉をかける事が出来ないの?」
「はっ……出来ないね。そういう性分なんだ」
「はぁ………まったく。でも……アナタらしいわ。ふふっ」
「イッヒッヒッ……」
デルマーノとアリアは互いに見つめ合うと微笑を浮かべる。
アリアはそっ、とデルマーノに寄り添った。
デルマーノは気恥ずかしそうに頬を掻くと呪文を唱え、王族の席へと目を移す。
そこには女王セライナと三人の王女、そして本日の席の主役であるシンシアと二人の娘がにこやかに列席者と会話をしていた。
「ふっ……」
「?……どうしたの?」
「ユーノもリリアも元気そうだ、とな」