元隷属の大魔導師 71
「……はい」
「私はね、デルマーノ君。娘の目と噂、どちらを選ぶかと聞かれたらそれは娘の目を選ぶよ。当然だね」
「…………」
「それで、だ。ウチの娘と真剣に交際する気はあるのかね?」
「もちろんです」
「ふむ………」
グラノはジロリ、とデルマーノと彼に寄り添うアリアを見た。
「…………認めよう」
「ち、父上っ。本当ですかっ?」
「アリア、私がそういう冗談を言うタイプだと思っているのか?」
「い、いえ」
「……つまり、そう言うことだ」
「ありがとうございます」
デルマーノは机に額が付く程、頭を下げる。
宮廷魔導師の慇懃な仮面を付けているからだけでなく、本心からグラノの言葉が嬉しかったのだ。
「…………デルマーノ君。左腕を見せてくれるかね?」
「……はい」
デルマーノは袖をまくり、左手首の奴隷印を見せる。
「……私はね、奴隷解放には賛成だった。だから今更、差別もしないし、娘をやることも嫌とは言わない。しかし……」
「…………」
「……娘を泣かしたら……殺すよ?」
「はっ。お手を汚しにならないよう努力します」
「……んむ。いいウィットに富んだ返答だ」
グラノは満足げに頷いた。
「デルマーノ君。君、魔導師らしいが剣の方はどうだい?」
「……少々」
デルマーノの謙遜を聞き、アリアはフォローする。
「そんなことありません、父上。デルマーノは先日エーデル・ワイス隊長と引き分けたんですよ?」
「ほう?ワイス公の娘とか?それは………ふむ。いや、我がアルマニエ侯爵家は代々、武門の誉れであるからな。文官が家に入った事がなかったのだが。そうか、剣の腕も立つか……」
「アナタ、息子が出来て嬉しいのは分かりますが難しい話しはまた今度にしましょう」
それまで静観していたアリアの母、シスカがグラノを窘めた。
「アリア。今日は彼と楽しんでいらっしゃい」
「はい、母上。行こう、デルマーノ?」
「ええ……」
二人は立ち上がるとバルコニーを出て行った。
残されたアリアの父母。
「…………母さん、これからが面白くなる所だったんだが……」
「いけませんよ、アナタ。若い人達に家も血も関係ないんですから。それにしても……よくアリアとの交際を許しましたね?てっきり反対するものだと思っていましたのに……」
「ふふっ……私も始めはそのつもりだったよ。だがな……」
楽しそうに口元を綻ばせるとグラノは続ける。
「彼の目を見て気が変わった。母さんは見たかね?私はあんなに鋭く、燃えたぎった目を終ぞ見たことがない。一目で気に入ったよ。それに隷属出身で今の地位につき、悪名と言えどもここまで名を轟かせるには並大抵の努力では足りない。私は努力する者が大好きなんだ。はっはっはっ………」
そう言うと髭を揺らし、グラノは大きな声で笑った。
一方、デルマーノは……
「アリア……どうだった?随分、早かったけど」
フローラの問いにデルマーノと腕を組んだアリアはブイサインを出す。