元隷属の大魔導師 8
「はあぁぁっ!」
アリアは渾身の突きを放った。隙ができたそのオーガには致命的である。アリアの目には訪れであるだろう、胸を貫かれたオーガの姿が映っていた。
しかし…
ガッ!ギギギギ…
後方にいた別のオーガが持つ錆び付いた戦斧に阻まれ、火花を散らす。
「くぅ…」
さらに突いた形で一瞬止まったアリアへ別のオーガが棍棒を叩きつける。
転がる様に避けたアリア。立ち上がる寸前に一番、後方にいたオーガの蹴りを受けた。
「っ!……」
宙に浮いた身体でも騎士として訓練されたアリアはとっさに受け身を取る。
たが、アリアの動きもここまでだった。蹴りの衝撃をいなしきれなかったのだ。
隻腕のオーガが振りかぶる拳を見上げ、アリアは自身の非力さに怒りを感じていた。
ヒュッ!
オーガのアリアへと振り降ろす腕は風切り音と共に止まった。オーガの頭部を槍が貫いている。
「たから言っただろうが……ったく、オーガは連携した攻撃を得意とすんだ。覚えとけよ?」
「……貴方には、助けられて…ばかりだな…」
「けっ!……マース、デ、モノ、クロイス、デァ…」
右肩に荷物の様にエリーゼを抱えたデルマーノは左手を翳し、何事か呟いた。
彼が中指に填めている指輪。その宝石部分から発する緑色の光が次第に強くなる。
尚もブツブツとデルマーノは唱え続けた。
オーガ達は一瞬、怯んだもののデルマーノへ向かっていく。棍棒を持ったオーガがデルマーノを間合いにいれた。
「…っ、デルマーノ!オーガが……」
「オー、ラ、ルナ………ぶっ飛べっ!」
指輪から放たれた光線はオーガ達の目の前で膨れ上がり、爆発した。
「フギャアァァ……」
アリアは暴走する光の奔流に目を瞑り、耳を塞ぐ。それでも目蓋を透過した光が眼に映り、爆発音とオーガの断末魔が鼓膜を刺激した。
それは数秒の事だったのだろうが、アリアには遥かに長い時間に感じられた。
光が止み、静寂に包まれるとアリアは恐る恐る目を開けた。
「なっ、んだ…これは?」
木々に包まれていた辺りは焦土と化していた。呆然とするアリアはデルマーノに目を向ける。
そこには驚くべき事実があった。
「っ!放しなさい、下郎!奴隷が私に触れないで、汚らわしい!」
アリアと同じく、それを見たエリーゼはデルマーノの肩で暴れる。
そう。彼の左手首には元奴隷を示す、鎖の形をした文字の焼き印があったのだ。
「はっ…誰がお前みたいな平べったいガキを好き好んで触るかよ……」
「きゃっ!何をするのよっ!」
立ち上がったアリアにエリーゼを投げる様に渡すとデルマーノは左腕を裾に入れ、三歩程離れる。
「貴方は…奴隷出身、だったのか?……ぁ、いや…悪い意味で聞いてる訳じゃ…」
アリアは好奇心が優先し疑問をつい、口に出してしまった。だが、エリーゼを助けたのは他でもないデルマーノであり、またエリーゼが彼に言った言葉を思い出し、取り繕う。
「イヒッ……そのお姫様の目には…もう慣れてるさぁ……ヒヒヒッ!」