元隷属の大魔導師 7
しばらく歩くと、荒々しい息遣いが聞こえてきた。
それと同じに、人のもので無い、獣のような匂いが漂ってきた。
「姫様ッ」
様子を伺うなど悠長なことなどできず、アリアはおもわずとびだしてしまった。
底に飛び込んできたのは、衝撃の光景だった。
「そんな…」
それはオーが達が姫を犯しているという最悪のもだった。
すでに気を失い、力無いエリーゼ。
アリアを目眩が襲った。
バンッ!
「っ!」
目の前で強く打たれたデルマーノの両手にハッとした。
「……呆けるなバカが…オーガは強力だ。死ぬ気か?……こっそりと近付いて奇襲をかけんぞ…」
ヒソヒソと耳元でデルマーノは囁くと、ほとんど音を立てずに足音へと回り込んで行った。
(……夢…だった、の?)
最悪の幻を見て、混乱するアリアは気を付けていても微かな音を起ててしまう。その都度、緊張で心臓が止まるかと思った。
デルマーノが茂みの影で屈んでいる。
ようやく追い付いたアリアにデルマーノは座るよう右手で指示を出した。
「ありゃ、オーガの巣だ。奴らが現れたらお姫様に近いのから優先に殺すぞ…」
「…分かった」
「てめぇは大事なお姫様を助けたらさっさと消えろ…」
「…え?」
「邪魔だ……」
「何だとっ!愚弄す…」
「黙れ、来たぞっ…」
土を掘り返して造られたオーガの巣を挟んで向かい側から、四体のオーガが現れた。
先頭のオーガは片手でエリーゼを宙吊りに持ち上げ、鼻息荒く、ウガウガと仲間に話しかけていた。
一方、エリーゼは言葉が通じないにも関わらず、放せだとか無礼だとかオーガに叫んでいる。
「…元気そうだな……」
「昔から気が強かったもので…」
「はんっ…」
デルマーノは身を屈めると、ダッと駆けだす。アリアもそれに続く。
「フガッフガッ!」
オーガはデルマーノに気付いたが、もうすでに懐へ潜り込まれていた。
デルマーノはエリーゼを持ったオーガの腕を槍の一閃で斬り放す。
「ヘッ?キャッ…」
エリーゼが地面に落ちる瞬間、デルマーノは抱えた。
「アリア!」
デルマーノはエリーゼを渡そうと振り向くと、アリアは剣を構えて片腕のオーガへと駆けている。
「よくも、姫様をっ!」
「ちっ…馬鹿が、引っ込んでろ!」
「貴殿が姫様をお連れしろ!私はこいつらを叩き斬る!」
「お前じゃ、無理だっつのに…」
アリアはデルマーノの言いたい事は分かる。先程までは納得していた。
だが、いざエリーゼが捕まっているのを見たら、頭に血が昇ってしまい、理屈が通じないのだ。
アリアは片腕のオーガが振り下ろした拳を一歩、退く事で避けると反撃を試みる。