元隷属の大魔導師 68
そこへデルマーノの左足が少し上がったのが見えた。
はっ、となりエーデルは更に後ろへ退く。
…………
「……ちぃっ!」
エーデルは舌打ちをした。
デルマーノは蹴るフリをしただけだ。
それを警戒しすぎたエーデルは見破れず、下がってしまったのだ。
そんな恐れすぎている己がエーデルは腹立たしかった。
尚もデルマーノはエーデルを追い詰める。
デルマーノの重く、速い剣撃と体術にエーデルは一歩、二歩と下がっていった。
そして……
どんっ………
エーデルの背が鍛練場の壁にぶつかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
エーデルは肩を上下させ、息を整える。
もう、退けない。
覚悟を決め、エーデルは木剣を刺突の構えへとした。
エーデルが出来うる最高の剣技。その気配に気が付いたデルマーノは警戒し、己も最高の技で応えようと剣を右手で持ち、左下段に構える。
アリアはちりちり、と首筋が痛む程の緊張をその場から感じた。
デルマーノとエーデルはその構えのまま五秒、十秒と動かず、互いに牽制しあう。
………………
そして、その時……
だっ、とエーデルが左足で踏み込み距離を一気に詰めた。
それに合わせ、デルマーノも右足へ体重を乗せ、腰を捻り、右腕を振るう。
「てえぇぇっい!」
「はあぁっ!」
ガンッ!
木剣がぶつかり合い、その衝撃で互いの腕から抜け飛んだ。
「「っ!」」
しかし、二人は未だ、戦意が治まらずデルマーノは左足を高く上げ、飛び上がり、エーデルは右手刀を突き出した。
だんっ!…………
時が停止する。
デルマーノの左踵はエーデルの頭上で止まり、エーデルの手刀はデルマーノの首元に収まっていた。
「はぁ……はぁ……引き、分け……?」
「そう……ですね………ふぅ……」
エーデルの呟きにデルマーノが答える。
デルマーノは左足を地に下ろし、エーデルは右手を戻した。
「「……………」」
アリア、フローラ、ヴィッツそして目を覚ましたヘルシオ達はそのあまりの激闘にぽかん、としている。
そして、思い出したように息を吸い、拍手をした。
鍛練場で拍手はどうかと思ったがこれ以上、他に合った行動が思い付かなったのだ。
「……デルマーノ…隊長もっ……すごかったですっ」
「ほんとっ……きゃぁ〜っ!何て言うのっ?達人同士の名勝負っ?」
きゃあきゃあ、とフローラはアリアの肩を抱いた。
「確かにすごいとしか言いようがないな。デルマーノさんもエーデル隊長も素晴らしいっ」
「僕、僕………感動しましたぁ……」
ヴィッツなど目を潤ましている。
「いや〜……エーデル隊長。ありがとうございました」
「こちらこそ、無理なお願いを………」
デルマーノとエーデルは木剣を拾い、構えると騎士の礼をした。
「ふぅ………では……アリア、フローラ!訓練に移るぞっ!」
「「は、はいっ」」
木剣を拾った事で厳しくなったエーデルがアリアとフローラに命ずる。