元隷属の大魔導師 67
「デルマーノ隊長。遅かったな……構えよっ!」
「っ!………エーデル隊、長…ですよね?……」
デルマーノは呻いた。
それも仕方がないだろう。エーデルの態度、口調が普段のおっとりしたモノから木剣を持つと一変、きびきびとした鋭いモノへとなったのだ。
「?……そうだが」
「………二重人格?」
「何をブツブツと……いくぞっ!」
エーデルは木剣を上段に振り上げると地を強く蹴った。
ぐんっ、と一息で五歩程の距離を詰めるとデルマーノへと木剣を振り下ろす。
「ぅっ………」
その剣速は余りにも速く、常人の目には捉えきれなかった。
しかし、デルマーノも然る者、エーデルの踏み込みに合わせ斜め後ろへと跳び下がると先ほども見せた下方からの突きを放つ。
「くぅ……」
カンッ……カッカッ……
エーデルは振り下ろした木剣を腰を捻ることで素早く上げ、デルマーノの突きを受け止めると更に追撃してきた連撃をいなした。
とっ、とエーデルは後ろへ跳び、間合いを取る。
その一連の攻防がほんの数秒の間に行われた。
「…………ふぅ…」
緊張が張り詰める中、エーデルは吐息を漏らす。
「やはり……強いな、デルマーノ隊長。始めの剣、よもや木剣を使わず、かわされるとは思わなかったぞ?」
「………ありがとうございます」
「しかし貴殿は………本気を出していないだろう?」
「っ!」
エーデルの感想にアリアは驚き、息を飲んだ。
そして、はっ、とデルマーノを見やる。
「……何故、そう思いますか?」
「ふんっ………剣を合わせると聞こえたぞ……貴殿の内に飼っている獣の叫びがなっ!」
エーデルは左下段から右上段へと逆袈裟斬りを放った。
「はっ………そうかいっ!」
デルマーノは吠えると構えを解いた。
アリアは気が付く。
デルマーノは素の、野獣の本性を現したのだ。
下方からのエーデルの斬り上げをデルマーノは木剣で受け止めた。
「!………何っ?」
エーデルは驚きの声を上げる。
自分は木剣を両手で持ち、渾身の力で剣を放ったのだ。
それを片手で木剣を持ったデルマーノが受け止めるなど男女の力量差があろうとも考えもしなかった。
「………っ!」
エーデルは視界の外から何かが近付く気配を感じ、慌てて後ろへと跳んだ。
ゴォッ……
風切り音と共に目の前をデルマーノの左足が高速で通過した。
エーデルは己の一瞬の判断の正しさに安堵しつつも驚く。
木剣での試合に体術を用いるなど通常の騎士にはない発想だからだ。
左足の蹴りを空打ったデルマーノはその足で踏み込み、エーデルへと迫る。
振りかぶった木剣を振り下ろした。その剣は一見、無造作だがよく見れば無駄がなく、速い。
「っぅ!」
避けるには速すぎるその剣をエーデルは木剣で受け止めるしかなかった。
ごんっ、と身体中へと響く重たい一撃にエーデルは呻く。