元隷属の大魔導師 63
「貴方がターセルへ行かなければターセル兵は皆、死んでたわ。クレディア軍によってね。それを貴方の登場でターセルは敗北条件を受諾する代わりに兵達の命を失わずにすんだ。貴方の思惑通りにね」
アリアは今回のターセルの遠征でデルマーノが成したかった事を推論した。
「ヒッヒッ……イッヒッヒッ!いや、参った。そこまで読まれるたぁ、驚きだ。いつ、気付いた?」
デルマーノは大笑いすると尋ねた。
「うん。ターセルからの帰りにね、もしかしたらって」
「イヒッ!アリア、お前は俺には勿体ねぇ、最高の女だ!ヒッヒッ!」
デルマーノは笑い続けた。
なにが彼をそこまで笑わせているのだろうか。
「ヒッヒッ………そこまで気付いてんのはジジイくれぇだと思ったんだがな?」
「ノーク殿が?」
「ああ、奴は俺の考え程度、見透かしてんのよ。しかし、アリアに読まれたかぁ。ヒッヒッ……」
尚も彼は笑い続ける。
しかし、アリアは恐らくだが、自分は褒められているのだろうと解釈し、気を良くしていた。
だが、一つ、気になることがある。
「ねぇ……貴方は王族殺しの汚名を被ったけれども、どうするの?」
彼の事だ、何か策があるのだろう。
「どうする、ってどうしようもねぇな」
「えっ?そんなっ……嘘でしょう?」
アリアは驚いて、聞き返した。
彼が無策だったことが信じられないのだ。
「嘘なもんか。事実、俺は女王や王女、宰相らを除いた殆どの貴族から王族殺しってんで嫌われているぞ?ヒッヒッヒッ……」
「デルマーノ………貴方……」
デルマーノは一見、傍若無人な人間に見える。
しかし、本当の彼は他国の兵の命を救うために自身が汚名を着る事を全く、躊躇しない、真の『騎士道』精神を抱いていた人物だったのである。
アリアはそう、彼を理解した。
ふぅ、と息を吐いたアリアは身体を反転させ、デルマーノと向かい合わせになる。
疑問符を浮かべる彼を両腕で優しく、抱いた。
「な、なにを?」
「デルマーノ……貴方がいくら嫌われても、私はずっと……大好きだから、ね?」
アリアはそっ、と顔を近付けると唇を重ねた。
「…ちゃっ………ああ、ありがてぇ」
「ふふっ……んんっ…」
何度か啄む様な接吻をする。
アリアの内に暖かい何かが満たされていった。
「うしっ……んじゃ、行くか?」
「ええ♪」
宿を出て、朝食を採ると、デルマーノはアリアを抱え、飛び上がった。
肩と膝を抱かれた所謂、お姫様抱っこである。アリアは腕をデルマーノの首へと回し、密着を高めていた。
最近、空を飛ぶことが日常的なっている。
これがデルマーノ達、魔導師の目から見た世界なのか。
フワッ、とある程度の高度まで上がるとデルマーノは近衛騎士局へと緩く降下を始めた。
沢山の人達が働き始めようとしている活気の漲ったディーネの街並を足下に見ながらアリアは数分の空の逢い引きを楽しんだ。
局へ着くとアリアはデルマーノの鍛え抜かれた腕によって地面へ丁寧に降ろされた。
少し、残念だ。