元隷属の大魔導師 55
「雑用……係り、か……」
「ああ、基本的に栄転っぽい左遷だからな。他の部隊からの目も冷てぇし……」
「それでも……一生懸命にやるだけだ。私の生涯は先日、ターセルで終わるはずだった。それを救ったのが貴方達である。ならその恩に報いるのが私の務めかと……」
「イッヒッヒッ………真面目だねぇ。所謂、宮廷魔導師タイプだ。俺の周りにゃいねぇな」
失礼な事をぬけぬけと。私は真面目だと自他共に認められているんだから。
アリアはコクリ、と喉を鳴らしながら、その思いを視線に込めてデルマーノを睨んだ。
暫くの間、四人は他愛ない話しをしながら食事をした。
料理の皿が概ね、空になったのを見計らいフローラは口を開いた。
「じゃあ、私はヘルシオ君を連れてディーネを散策するから……」
「?………デルマーノさん達はどうするのだ?」
「ちょっと……気を使いなさいよっ」
「気を?…………」
フローラのその言葉にアリアは顔を赤くする。
平然と酒を呑むデルマーノと、もじもじ、と恥ずかしがるアリアを交互に見てヘルシオは頷いた。
「なるほど、二人は……了解した。私はフローラさんに案内を乞うとしよう」
「じゃっ……そういう事で。いこっ、ヘルシオ君!」
フローラとヘルシオは席を立つと店を出て行った。
デルマーノと二人きりになったアリアは急に、身体が火照り始める。
彼と二人っきりでこの様なゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりではないか。
「気を……使わせちゃった、わね……」
「はっ……金は払ってないがな」
「え?………あぁっ」
フローラ達の退席の仕方があまりにも自然だったので、気付かなかった。
「ヒッヒッヒッ……まぁ、二人になれた代金だと思えば、安いモンよ」
「ふふっ……ええ、そうね」
「じゃ、俺らも行くとするか?」
デルマーノはそう言うと店員を呼び、数枚の銀貨を渡した。
席を立ち、着崩れた着衣を直すと、二人は屋外へ出る。
「どこか行きてぇ所、あるか?」
「う〜ん……」
「ねぇなら適当に歩くとすっかな。ちょっと、寄りてぇ所もあるし……」
「寄りたい所?」
「ああ。ほら、ヤフー街の病気のガキがいただろ?任務で半月近くも診てねぇからな。良いか?」
アリアはあれからもずっと、デルマーノがリーサの診療を続けていた事は知っていた。
しかし、あの日以来、一度もヤフー街へ足を運んだことはない。
沸々とアリアの中で好奇心が沸き上がってきた。
期待半分、不安半分でアリアは頷く。
「ええ、構わないわ。ちょっと怖いけどね」
「ふんっ……安心しろ。俺が守ってやる。お前に手出しはさせねぇよ」
デルマーノの本心であろう、その言葉にアリアは赤面した。
嬉しさで呆けているアリアを抱き寄せるとデルマーノはそっ、と唇を落とす。
「今回だけじゃ、ねぇ。ずっとだ」
「え……?」
「ずっと、お前を守り抜いてやる。約束すんよ」
「デルマーノ……うんっ」