元隷属の大魔導師 54
アリアは最近、思うのだがデルマーノは出会った時に比べ、丸くなっていないか。
それが自分と関係を持った為だとしたら、なんだか嬉しい。
「さて……レベッカッ」
「はい、デルマーノ様」
「俺達ゃ、街へ行ってくるから昼飯はいらねぇ」
「了解しました。いってらっしゃいませ」
レベッカは深く、礼をすると応接間を出て行った。
デルマーノとヘルシオはマントを羽織る。
ヘルシオのマントも宮廷魔導師のモノであった。
「これは……すごい。なんと栄えている事か……」
ヘルシオは感嘆の声を上げた。
ディーネの中心街を行き交う商人達を物珍しげに眺めている。
「ヒッヒッ……良い反応だな?」
店々を通り過ぎるたびに歓声を上げるヘルシオに三人は苦笑した。
「デルマーノさん、やはりカルタラの盟主は違うな。ターセルよりも段違いに栄えている」
「そりゃな。ターセルは貿易都市じゃねぇし……」
興奮冷め止まぬヘルシオを連れ、四人は近場の酒場に入った。四人掛けの円卓に掛けるとフローラが注文をする。
暫くすると焼かれた猪肉やサラダがテーブルに運ばれてきた。
「これは……なんだ?」
目の前に運ばれてきた杯を覗き込み、ヘルシオは問う。
金属の杯には飴色の液体が入っていた。
アリアやデルマーノも不審の視線を注ぐ。
「んふふ〜……命の水よ」
フローラは意味ありげに微笑んだ。
その言葉で何か分かったデルマーノはグイッ、と杯を煽った。
「か〜っ……昼間っからの酒は効くなぁ〜」
フローラも倣い、口をつける。
「う〜ん、おいし……」
アリアとヘルシオは二人が呑んだ事で目の前の液体が安全である事を確認し、恐る恐る杯を傾ける。
熟成された大麦の独特の香りが喉を駆け抜けた。
「………美味い」
「ふふっ、気に入ってくれて良かったわ。今、ディーネで流行っているのよね、これ」
ヘルシオはちびちび、と呑む手を止めない。
アリアも香り豊かなその酒で喉を鳴らした。
「ふんっ……ウィスキーか。蒸留したビールを樽で熟すんだよな、確か……」
「さっすが、デルマーノ君っ。博識ね〜」
既に酔っているのかフローラはけらけら、と笑う。
いや、普段もこんな感じか。
本人が聞いたら頬を膨らまし、反論するであろう、失礼な感想をアリアは抱いた。
「いや〜……でも近衛魔導隊って大変でしょ?」
「?……何故?」
本格的に勤め始めていないヘルシオは疑問符を浮かべる。
「あ、ヘルシオ君は知らないのか。実はね……」
フローラはヘルシオに近衛騎士局に置ける近衛魔導隊の立ち位置を説明した。
「……って事で、窓際部署なのよ。今回みたいな特例を覗いたら任務なんて……」
フローラに視線で後を続けるよう合図されたデルマーノは言う。
「第二王女ミルダの狐狩りの護衛に当日、欠員が出たからって急遽、当たったのが二回。んで第一王女エリーゼが参加する茶会の下見が一回……とまぁ、言うなりゃ雑用係りだわな」