元隷属の大魔導師 50
「そう、邪険にする事もなかろう。儂に『あれだけ』の仕事をさせといてな」
デルマーノは鳥形ゴーレムを使い、ノークと連絡を取り合っており、ヘルシオの存在の裏工作等をノークに頼んでいたのである。
「ふんっ……まぁ、お陰で万事、上手くいったけどよ」
「しかし、お前は悪知恵が働くの……宮廷ではすでに『抹殺者』やら『国潰し』などと呼ばれ始めておるぞ?」
「ヒッヒッ……好きな様に呼ばせりゃ良い」
「少しは世間体も考えろ、まったく……」
ノークは杖で床を数回、叩くと、溜め息を吐いた。
何を言おうと、この弟子が大人しくなるとは思えない為、ノークは心労が絶えないのだ。
「はんっ、世間体ねぇ………そう言えばアレだ、アレ…あ〜……思い出せねぇ」
「ヒルツ皇子の部屋の事、か?」
「それだ。用意は出来てんのか?」
「うむ。レベッカが昨日、一日掛けてな。塵一つも落ちておらなかった」
「おう、そりゃ良かった。あぁ…それとな、ヒルツ皇子じゃなくてヘルシオな。近衛魔導隊副隊長ヘルシオ」
「ヘルシオ……か。ターセル三代目皇が確か、そんな名であったな」
ノークはスラスラと指で空に綴りを書いた。
「あん?……ああ、そんな字だったな。そうか、何とか繋がっていようとしてんのか……」
「?………何、とだ?」
「ターセル皇国とだよ。ヒッヒッ……可愛げがあらぁな」
ノークはそうか、と言うと黙り、デルマーノの顔を眺める。
「………話しは変わるがな、お前は少し休め。何重もの魔術を同時に行使したのだ、ボロボロじゃろう?」
「はっ……んな事ぁ…」
「無いはずなかろう。お前にしては思考が鋭くない。明日、一日は休め。これは師からの命令だ。分かったな?」
「………はぁ、分かったよ。仕方ねぇか…」
デルマーノは低く息を吐くと、ドカッ、と部屋の一番奥の椅子に座り、机から紙を取り出した。
すると羽ペンを机の端に置いた墨壷に浸けると、紙に走らせる。
「?……何をしている?」
「ふんっ……明日、休まなきゃならねぇからな。今回の報告書やら何やらを今日中に仕上げんだよ」
「はぁ……お前は儂が休めと言った意味が分かっておらぬようだ。まあ、そういう奴だとは分かっているがな」
ノークはデルマーノの気が散らぬよう、静かに退室した。
翌朝。アリアはノーク邸への長い坂道を登っていた。
少し遅れてフローラもいる。
アリアとフローラは、というよりも第一王女付き近衛騎士隊は長期任務後という事で本日は皆、非番となっていた。
何をしようかと考えていたアリアは誰から聞いたのか、デルマーノの休暇を知ったフローラに半ば強引な形でノーク邸へ行く事を誘われたのだ。
ノーク邸を見てみたいという暴走する彼女の好奇心に呆れながらも、アリアは了承した。
デルマーノと過ごす休日に魅力を感じたからである。
そういう訳で今、この長い坂を登っているのだが、朝一にコレは少々、きつい。
「ちょっ、アリア…待って……」