元隷属の大魔導師 51
はぁ、はぁ、と息を荒くしたフローラの声にアリアは歩みを止めた。
「何?」
「……休憩、しよ?」
膝に手を乗せたフローラはアリアを子犬の様に見上げ、嘆願する。
「まぁ……良いけど…」
「やったぁ!アリア、大好きっ」
フローラはドサッと地に腰を降ろし、言った。
調子が良いんだから、と思いながらもアリアは倣い、座る。
「でも……大変ねぇ、デルマーノ君達も。この坂を毎日でしょ?」
「いや、ほら……彼らは空を飛べるから…」
「そっかぁ………でも使用人とかは、ね?」
「以前は住み込みのメイドが一人、居ただけだったけど……」
アリアは敢えて、レベッカがゴーレムである事を隠した。
それを知った時のフローラの反応を見てみたい、というちょっとした悪戯心である。
「へぇ〜……泊まったり、したの?」
にやにや、と笑みを浮かべ、フローラは尋ねた。
アリアは顔を真っ赤にして、反論する。
「わ、私は……ノーク殿の屋敷には一度しか行っていないっ。それも、居たのは一時間程度だっ!」
「ふふんっ……相変わらず可愛い反応♪」
アリアはそこで漸く、自分がからかわれていた事に気付いた。
それが余計に恥辱を高める事となり、アリアはパクパク、と口を開いて閉じるを繰り返すだけとなる。
「っ〜〜………も、もうっ!フローラ、休憩はお終いっ!」
顔を見られたくないアリアは坂を早足で登っていった。
フローラも尻に着いた土を払い、後を追う。
「ごめん、ごめん……そんなに速く、行かなくても………恥ずかしがり屋ねぇ」
そんな調子で言い争いながらも二人は丘の頂上付近に建てられたノーク邸へと辿り着いた。
「はぁ〜……立派なお屋敷。質素だけど…」
フローラは屋敷の端から端までを見回し、言う。
前回、来た時はエリーゼと共に城へと向かう事に集中していたため、あまりこの屋敷を見ていなかったが、成る程、よく見れば確かに、貴族の邸宅のような煌びやかさが無かった。
しかし、質素と言えば質素なのだが、何処か上品な印象を受ける。
そう、他人の家を観察し、勝手に感想を思う、と失礼な事をしていると、邸宅から箒を持った侍女が出てきた。
それを見たアリアは絶句する。
「これは……お客様。いらっしゃいませ」
「………レベッカ?」
「はい、御用でしょうか?」
「えっ、と……なんか、人間っぽくない?」
以前、見たレベッカは青銅色の肌をしており、人と見間違うほど精巧とはいえゴーレムだと分かった。
だが、今、目の前にいるレベッカの肌は白い人間のモノである。
「ええ、デルマーノ様が改良しまして……やはり、この色の方が買い物などはし易いので…」
「え?アリア?……どうゆう事?」
意味が分からない、とフローラは疑問符を浮かべた。
彼女はレベッカがゴーレムだとは露ほども思っていないのだろう。
「フローラ……そのね、彼女はゴーレムなのよ」
「………嘘っ?」
「本当。ノーク殿とデルマーノが二人で創ったね」