元隷属の大魔導師 43
「ふんっ……」
「でもね、私はデルマーノが何かするときには言って欲しいの。私も貴方が危ない目に合うのは嫌だから……」
「………」
「そりゃ、私は魔導師じゃないし、剣の腕も未熟だから頼りないだろうけど………でも、言って欲しいし、出来れば力を貸したいっ」
デルマーノは彼にしては珍しく、口を空け、呆けている。
「その……我が儘、だったよね?」
「ヒッヒッ……嫌、良い。俺はお前のそういう所に惚れたんだろうな、きっと」
デルマーノはそう言うとアリアの肩を抱き、唇を重ねた。
「んんっ………デルマーノ……」
とろん、とした目でデルマーノを見つめるアリア。彼の腕に抱かれると心地良い。
昔、フローラが恋愛は相性だと言っていた。
私達は最高に相性が良いのだろう、アリアはそう思う。
その時………
ガサッ……
「お姉様っ、押さないで……」
「もうっ、リリア……声が大きいわよ?」
井戸の側の茂みが音を立て揺れ、中から声が聞こえた。
アリアは驚いて、デルマーノから離れる。
「……おいおい。お姫様が出歯亀かよ?」
「誰がよっ、失礼ね!」
茂みから頭を突き出しユーノが反論した。
リリアも、もう隠れている意味もないだろうと茂みから出て来る。
「第一、他国の城でいちゃいちゃと、全くっ……」
その言葉にアリアは頬を赤く染めた。
「で、何か用かい?」
「別に……ただの散歩よ、散歩」
「本当はね、さっきの戦いをお城で見てて、それで来たの」
「もうっ、リリア!」
「えへへ………強かったねぇ〜」
リリアはアルゴの頭を撫でる。
アルゴはクルクルと喉を鳴らし、喜んだ。
「この子……名前は何て言うの?」
「アルゴだ……」
「そうなんだ……アルゴ。偉い、偉い……」
ターセルへ来る途中、近衛騎士隊員達がアルゴの世話をしようとしたが、デルマーノ以外には一度も懐かなかった。
それもあってアリアはアルゴがリリアに懐いた事に驚く。
「………昨日から貴方に言われた事をずっと、考えていたわ」
「そうかい……で、何らかの答えが見つかったから来たんだろ?」
「ええ……私は、シュナイツ王国へと亡命する。そして、何時になるかは分からないけど、絶対にターセル皇国を取り戻すわ。それが貴方の言った王族の『義務』。違う?」
「ふん……正解。まぁ、及第点だかな。イッヒッヒッ…」
「及第点ね……ま、いいわ」
ユーノはそう言い、微笑んだ。
己の歩もうとする道を認めてもらい嬉しいのだろう。
「そう言えば、デルマーノ…さん?」
「よせよ……王族にさん付けされたら、体中が痒くなる」
「なら、家名で呼ぶべきかしら?」
「俺に家名はねぇ。奴隷上がりなんでね」
デルマーノは刺青の入った左腕をユーノに見せた。
ユーノはそうなの、とあっさり受け入れる。奴隷の風習のないターセルでは特に問題視する事ではないのだろう。
「じゃあ……デルマーノ。貴方って隊長だったわよね?えっと……」