元隷属の大魔導師 42
なんと言って良いかも分からず、エーデルは一先ず、解散させる。
近衛騎士隊中でもアリアはいち早く、城へと駆け出した。
「はぁ……はぁ…」
昨日と同じく、彼は馬屋の脇にいた。
「来るとは思っていたが……早かったな」
「多分、ここかなって……それよりもっ、敵を逃がすなんてどうゆうつもりなの?」
「はっ……俺ゃ、端っから逃がすつもりだったんだがな?」
「………何で?」
「奴は本陣に帰り、こう言うだろう。シュナイツから来た奴等は手強い、と」
『翼竜騎士団』が二部隊も落とされたのだ、当然である。
「そうすりゃ、クレディアの連中は俺達を何としても追い出そうとする。そこで取引が行われるんだ」
「もしかして……」
「ああ、こっちの条件は皇妃と姫達の亡命の黙認」
「そしたら……安全にシンシア様達をシュナイツへお連れ出来る」
「そう言う事。そして俺ゃ、向こうが出すであろう条件も大体は予想してんだ」
「?……それは?」
「皇及び皇子の投降、またはターヘル皇国の無条件降伏だな、多分……」
「それじゃあっ、根本的な解決にはならないじゃない」
「ふんっ……だが、完全な敗北から女とは言え、皇族の血を残す所まで持ってったんだ。御の字だろうよ」
「そう…だけど……」
「俺達がやれんのはここまでだ。シュナイツ騎士である以上、出来る事は……もうねぇ」
そうなのだ。自分達はシュナイツ王国の近衛騎士である。
己の誇りであったその肩書きが今、自身の足枷となっていた。
(シュナイツ騎士は任務以外の戦闘を他国では行えない……それは分かっている…でも………)
アリアは考えを巡らせているとふと、ある事に気付く。
「ねぇ、デルマーノ。貴方の任務は私達の護衛よね?だったら、戦闘意志を自分にじゃなく、私達に向けさせるだけで特例が認められたんじゃないの?」
「……………気付かなかったな」
「嘘、今の間は絶対に気付いていたでしょ?」
「いいや、全く」
「……知ってた?貴方って嘘を吐くと、鼻が赤くなるのよ?」
じーっ、とアリアはデルマーノの顔を見つめた。
「……んな、子供騙しに引っかかる奴、いんのか?」
「わ、悪かったわねっ!」
アリアは思わぬ切り返しに、顔を赤くさせ、外方を向く。
「私に出来る事があったら…言ってて言ったじゃない……」
デルマーノは己を見つめるその真剣な瞳は諦めないだろう事を察し、観念した。
「………を……った…」
「……えっ?」
「ちっ……お、お前を危険な目に合わせたくなかった。三度は言わねぇからな!」
照れ隠しだろう、デルマーノは乱暴に告白する。
どもるあたりは愛嬌か。
「ぇ?……っと、ね…その……」
普段では考えられないような、己の身を心配するデルマーノのその言葉にアリアは赤面した。
「あのね……デルマーノがそんなに想っててくれて…嬉しいの」