元隷属の大魔導師 41
そう言い、魔導師をフィリムは未だ光を失わぬ目で睨む。
そんな時、鳥の高い鳴き声が聞こえた。
空を見ると頭部、前脚、翼が鷲、そして獅子の胴と後脚を持つ幻獣、グリフォンが四頭、此方へ飛んで来る。
キエェェッ!キェッ!
雄鶏の如き耳障りな鳴き声でグリフォンは鳴くと土を踏んだ。
グリフォンの背にはそれぞれ、騎士が乗っている。
「シュナイツの諸君。助力を感謝する」
「貴方は?」
デルマーノはその隊の隊長だろう男に問うた。
声色からデルマーノはあまり機嫌が良くないのでは、とアリアは感じる。
「私はターセル飛行騎士団クラングラン隊々長レナール・クラングランだ。早速だが、貴公の尽力で仕留めたその『翼竜騎士団』の隊長の身柄を引き渡して貰いたい」
「その前に一つ、よろしいですか?」
「何だ?」
「貴方は事の始終を初めから見ていた様ですが?」
「そうだ。ワイバーンが皇都へ入ったのに気付かぬ訳なかろう」
「援軍にも来ず、見つからぬ様、グリフォンにも乗らず、隠れて、ずっと見ていただけ、何ですね?」
区切り、区切りに話すデルマーノ。節々に苛つきが感じられた。
「………そうだ」
「そうですか、そうですか」
にこやかにそう言うと、デルマーノはフィリムを抑えていた手を放す。
「これはいけない。貴女には戦闘意志がありませんね。にも関わらず拘束するなど、軍規違反ではないですか!」
必要以上に大声でデルマーノはフィリムに言った。
「な、何?」
「ちっ……良いから、さっさと行けよ。察しの悪ぃ、女だな」
打って変わって今度は小声で悪態を吐く。
「……借りだとは思わんぞっ」
フィリムは跳ねる様に起き上がると、愛竜の背へ飛び乗った。
「……貴様の名、聞いてなかったな?」
「デルマーノ。近衛魔導隊々長だ」
「ふんっ。いつか、決着をつけてやるっ――」
翼竜は彼女に踵で蹴られると、数歩の助走の後、空へと飛び上がる。
小さくなるワイバーンを呆けた様に見ていたレナールは我に返り、デルマーノへと怒鳴った。
「き、貴公は何のつもりだ?」
「彼女は敵ではなかったので拘束は出来ませんでした……」
「敵でない?ならば何故、奴等を討ったのだっ?」
「そりゃ、敵でしたので……」
「わ、訳の分からんことをっ!」
理解不能なデルマーノの言い分にレナールは叫ぶ。
「あっ、この子の水浴びの時間ですので、私はこれで……」
目の笑っていない笑顔でデルマーノはそう言うと、アルゴを上昇させ、皇城へと飛んでいった。
「く…ぐく……エ、エーデル隊長っ!今回は、多目に見ますが…以降、気を付けて頂きたいっ!で、ではっ……」
相当、苛々しているのだろう、どもりながらレナールは怒鳴るとグリフォンに鞭を入れ、飛び去る。
取り残された近衛騎士隊は指示を仰ごうとエーデルを注目した。
「………では、皆さん……解散、しましょうか?」