元隷属の大魔導師 39
近衛騎士達の中でも血の気の多い者達が反論するが、フィリムはどこ吹く風と無視をした。
「まぁ、好きにするが良いっ……だがな、皇妃を連れ出すのを我々が容認するとは………」
ゴウゥッッ!
フィリムの声は暴風に掻き消される。
フィリムの目は一瞬だが、頭上を走った黒い影を捉えていた。アルゴに跨ったデルマーノである。
「何だっ?」
「ド、ドラゴンですっ。味方ではありません!」
「ちっ……」
狼狽える部下に舌打ちをすると、フィリムは対象を目で追った。
(三条。シュナイツ騎士は他国での戦闘を禁ず。しかし、戦闘意志を持った敵より攻撃を受けた時のみ、特例として戦闘を認める………デルマーノはまだ、飛んでいるだけ。戦闘行為ではない)
アリアは遠く空を翔る彼の背中を見つめ、考える。
アルゴはDの字を描く様に縦の旋回をし、『翼竜騎士団』の天頂に行くと急降下を開始した。
「ひ、ひぃっ!」
翼竜騎士団の中から悲鳴が上がった。
竜騎士だが、いや竜騎士だからこそ突撃してくる黒竜に根源的な恐怖を感じるのだろう。
「狼狽えるな、馬鹿者っ!」
フィリムの叱咤もこの時ばかりは効果がなかった。
「うぅ……ああぁっ!」
翼竜騎士団の一人が己の突撃槍を空へ、デルマーノへと向ける。
「イヒッ……戦闘意志を確認。これより防衛行動を開始する」
予め決めていたのだろう文句を口にし、アルゴに急停止を命じた。
アルゴは地上五メートルで止まる。
すると、デルマーノは掲げられた突撃槍に左手の人差し指を押し付け、血が出たのを確認した。
「ぅ……えっ?」
「負傷。これより……防衛行動から戦闘行動に移るっ!」
己を傷付けた突撃槍を奪うと、アルゴを降下させ、地上に脚を着かせる。
それと同時にデルマーノは突撃槍を奪った相手の胸に突き立てた。
「うぅぁ…あ?……」
仰向けに倒れる部下を見て、フィリムは激昂する。
「貴様っ!何のつもりだっ?」
「えっ?私は只、自身への攻撃を正当に防衛しただけですが?」
これまた、事前に決めていた台詞だろう。
「おのれぇっ、しゃあしゃあとっ!第二隊、コイツを討ち取れ!」
「ふっ………ここでは互いに力が出せないでしょう?」
アルゴは一度、吠えると急上昇を開始した。
それを追い、六頭のワイバーンが飛び立つ。
「貴様らの仲間だろう?ふざけた真似を……奴がクビリ殺されるのをそこで身ているがいい!」
(ここまでは……計画通り………デルマーノ…)
祈り似た思いでアリアは彼の背中を見詰めた。
「イッヒッヒッ……半分か。まぁ、『竜騎士』一騎落とすんなら釣りがくるぐれぇだが……生憎、俺ゃ『魔導師』なんだな、これが……」
デルマーノは加速するアルゴの背で呪文を唱え始めた。