元隷属の大魔導師 38
クレディア軍は当初、南門を『翼竜騎士団』二部隊を含む五百の兵で攻めていたが、これはあからさまな囮だ。
しかし、ターセル軍は兵を割かない訳にもいかず、現在、クレディア軍本隊がいる東門は圧倒的物量差でターセル軍劣勢となっていた。
そんな中、シュナイツ近衛騎士隊は、戦線に出る事は出来ないが、だからと言って皇城に籠もっているのも騎士道精神を刺激する、と言う訳で皇城の東に位置する演習場に待機していた。
武器の手入れをする者、鍛練を行う者、様々な中でアリアはフローラと話しをしていた。
「はぁ〜…戦いが直ぐそこで起きているのに参戦できないのって……こう、心にガ〜〜ってくるのよね」
「まぁ、フローラのイライラする気持ちは分かるわ……でも、私の髪を弄るのは止めて」
アリアの赤みがかった髪を梳く手を止め、フローラは言う。
「アリアってば……何でこんなに髪がサラサラなのよ?ズルいなぁ」
「何がよっ?」
アリアの声を無視し、フローラは続けた。
「そう言えば……デルマーノ君はどこ行ったのよ?」
「…………さぁ、知らないわ」
「あぁ〜……今の間は絶対、何か知っているでしょっ?ねぇ?」
「……いいえ、何も知らないってば」
フローラはアリアの顔をじーっ、と見る。
「………知ってた?アリアって嘘吐くと耳が赤くなるのよね〜」
アリアはばっ、と耳を両手で隠した。
「うっそ〜……ふふん、さぁ観念して……」
フローラに閉口し、アリアは空に目を向ける。
「っ!」
空を見た彼女の目には緑の影が写った。
アリアは立ち上がると腰の剣に手を掛ける。
「わぁっ!アリア、ごめんっ。そんな怒るとは……」
「フローラ……あれ…」
「……あっ」
フローラもアリアに倣った。
他の騎士達も気付き始め、臨戦態勢を取る。
バサッバサッ……
十二頭のワイバーンが演習場の土を踏んだ。
先頭のワイバーンの背に乗る翠の鎧を身に纏った騎士が声を発する。驚くべき事にそれは若い女のモノだった。
「……この隊の隊長は誰だ?」
その声に応え、エーデルが近衛騎士達の中から一歩、前に出る。
「私です。シュナイツ第一王女付き近衛騎士隊々長エーデル・ワイス」
エーデルの名乗りを受け、その騎士は兜を取った。鎧と似ている翠の髪をポニーテールにした、若い女性である。
「ほう、名乗ったか……私の名はフィリム・フィンドル。翼竜騎士団中隊長だ。それにしても……貴様らは戦にも出ず、何のつもりだ?」
「私達はシンシア皇妃及びユーノ姫、リリア姫の亡命の護衛として派遣されています。なので……」
エーデルの話しを切り、フィリムは言った。
「ははっ……シュナイツ騎士は腰抜け揃いか?んんっ?」
フィリムは高圧的に言うこと馴れているのだろう、アリア達を威圧する。
「なんだとっ?」
「おのれ、シュナイツを愚弄するかっ!」