元隷属の大魔導師 35
馬を降りると彼等に案内され城内へと通された。
「この騎士隊の隊長はどなたかな?」
アリアは老紳士然とした文官に尋ねられた。
尋ねる相手に選ばれたのはアリアが特別目立っていた訳ではなく、単に待機のため宛行われた部屋の出入り口付近に彼女がいた為だけである。
特に隠す必要がある訳ではなかったので素直にエーデルを指し、文官に彼女の名前を教えたのだった。
文官は礼を述べるとエーデルに近付き、何事か話しをしている。
アリアは隊長という単語でそう言えばと思い出した男を捜した。
(………っ……いない?)
室内にデルマーノはいない。
アリアは暫し考えると一つの答えを見出し、退室した。
「やっぱり……ここにいたのね?」
馬屋の場所を通りすがりの衛兵に聞き、着いたそこではデルマーノが井戸から汲んできた水をアルゴに掛けていたのであった。
「あん?……あぁ、アリアか。まぁな、三日も水浴びをさせてやってなかったから、身体中埃だらけでよ」
ザバァとアルゴの首から頭に水で洗い流す。
「おら、終わったぞ……ん?そうか。そいつは良かったな…」
ゴシゴシと頭を撫でられたアルゴはクルル…と喉を鳴らし、翼を揺らした。
デルマーノに構って貰ってるアルゴに軽い嫉妬を覚えながらもアリアは近くの石垣に腰掛ける。
すると手を洗ったデルマーノが横に座った。
「ふふっ♪」
「?……何だよ」
「別に〜…何でもない♪」
「…?……?」
アリアの挙動を不審がりながらもデルマーノは彼女の肩を抱くと、呟く。
「しっかし…この国ゃもうだめだな…」
「ええ……倍以上の軍に囲まれてるしね」
「兵糧もなくなるだろうし、何よりクレディアの奴等を見たか?」
「………?」
「俺が見ただけでも攻城兵器が七つ、『翼竜騎士団』が二部隊だ。この国にどんだけの飛行戦力があるかは分からねぇが……まぁ、ジリ貧で一月だな」
一月。それがターセル皇国の余命か。
クレディア軍が十分の一になったとしてもそれなのだ。開戦当初に圧倒されたのも無理からぬ事だろう。
「見て、お姉様。おっきなドラゴン!」
「危ないわよ、リリア。ドラゴンは凶暴な幻獣なんだから……」
ターセル皇国の絶望的な未来を憂いていたアリアの耳に少女の声が入ってくる。
声の元を見ると、アルゴの回りではしゃぐ赤いドレスを着た十二、三歳の女の子とそれを心配そうに見つめる緑色のドレスを着た十五、六歳の少女がいた。
色白で赤い髪の、どこか似た雰囲気の可愛らしい少女たちだ。
「大丈夫よ。この子、すっごく大人しいんだからっ」
「もうっ。本当に危ないんだからね!」
姉はハラハラと妹を止めようする。
「デルマーノ。今、リリアって……」
「はっ、直接聞きゃいいだろ」
大股で少女達へ向かって歩いていくデルマーノ。
彼に気付いた少女達はびくっと怯え、寄り添った。