元隷属の大魔導師 34
一同は改めて事の重大さを認識したのであった。
小休憩を除くと丸一日、馬を走らせ続けた。
そして一行は皇都まで十キロ、皇都の見張り塔が見える辺りまで辿り着いたのだ。
戻ってきた斥候の報告を聞く。
皇都の周囲には一万のクレディア軍。
当初はその十倍はいたが、皇都に籠城したターセル軍は五千と分かるやクレディアが誇る名将達は各部隊と共に撤退したそうだ。
現在、クレディア軍を率いているのは勇将ハンセルの三男坊。
勝利を確信したクレディアは後の武将を育てることにしたのであろう。
「……と、この様な現状です。何か聞きたい事はありますか?」
エーデルを中心に騎士達は半円を組み、彼女の説明を聞いていた。
「はいは〜い!隊長、どうやってターセルに入るんですか?」
フローラが勢い良く手を上げ、質問をする。
彼女の言うターセルとは皇都の事であった。
「入るのは簡単ですよ。シュナイツの国旗を掲げていれば、こちらから仕掛けないかぎり攻撃はされませんから。他にはありますか?」
想定の範囲内の質問であったのだろう、考える間もなく答えるとエーデルはぐるりと見渡し、皆が納得したのを確認する。
「では、皆さん。行きましょうか?」
エーデルが馬に跨るのを期に一同はそれに倣った。
ターセルを囲むように展開したクレディア軍。籠城したターセル軍を追い詰める為、猫の子一匹すら逃がさない様、隙間なく配置されている。
そんな中、クレディア兵達は突如現れた第三軍を発見した。
それは三十余りの騎兵と一騎の竜騎士。彼等が掲げている旗にはカルタラ同盟国家群首長国シュナイツ王国の紋章が描かれていた。
一万程度の軍でカルタラ同盟国家群と事を構える訳にはいかない。
クレディア兵達は彼等と一定の距離を保った。
ドッドッドッ……
蹄が地を蹴る音と共に騎馬隊はクレディア軍へ近付いてくる。
止まる気配がないと分かるとクレディア兵達は誰に命令された訳でもなく、シュナイツ騎士隊が通る道を作った。
目の前を勇壮な騎馬が通り過ぎ、ターセル皇都の門へと向かっていく。
堀に渡し橋が架かり、皇都に消えてゆくと目が覚めた様にクレディア兵達は漸く、上官へ報告するために駆け出したのであった。
「すっごいわね〜……皆、ポカンとしてわよ」
皇都へ入るとフローラは隣で馬を駆るアリアへ話しかけた。
「確かに……てっきり一悶着あるものだと思ってたわ」
アリアも驚きは大きい。
なにせ実戦は初めてである。アリアだけではなく、この騎士隊の半数は今日まで戦争を経験していなかった。
もちろん、フローラもだ。
「でもなんか……スッとしなかった?ザザ〜…て道が出来たときとか……」
そこで前を走る熟年の小隊長から叱責を受け、アリアとフローラは話しを中断した。
無言のまま、煉瓦造りの道を真っ直ぐ皇城へと向かっていく。
皇城の前でアリア達はターセル騎士団の歓迎を受けた。
援軍だと思われているのだろう。